♡ワケあり彼女と極秘恋愛♥
チッチッチッチッ───
時計の針が進んでいる音が聞こえる。
その音を耳に入れながら、
「そうだのぉー…、これは私が26歳の時の話なんだが…」
…どうして、私はこんな話を聞かされているんだろう、としみじみ思う。
──…教室を飛び出して、
ダッシュで向かったのは、職員室。
「はぁっはぁ…松原先生ー!!!水野です!」
私がそう言うと、「よく来たね〜」と言いながら
松原先生が出てきた。
松原先生は、白い頭に白いひげをした、理科のおじいさん。
ちなみに、この学校の最年長。
「いや~、水野さんは本当に点数が上がったねー」
「はい」
「相当頑張ったんじゃないのかい?」
「そうですね…、すごく勉強しましたね」
私は、優等生風のスマイルで受け答えする。
だって、賢くしてたら、すぐに話が終わるだろうって思っていたから。
……でも、私はあることを忘れていたんだ。
「先生の教え子は、そうやって、どんどん成長して……」
「……先生。その話、さっきもしてました」
──そう。
松原先生は、気に入った生徒を捕まえると、なかなか離さない、と。
「そうだったっけね?いやー、ごめんね?水野さん。」
もう歳やのぉーなんて言いながらあひゃひゃと笑う松原先生。
……もう、ほんと勘弁してほしい…。
5分で帰ってくる、なんて勇也に言っておきながら
25分も経ってるよ?!
ここは、ずばっと言わなきゃ…!!
さすがにいつまでも話を聞いてるわけにはいかないから、
私もちゃんと言おうと決めた。
「あの、私 人待たせてるんで、もう帰らせていただきます!!」
そして、先生に頭を下げ、職員室を出ようとしたとき。
「水野さん」
先生に呼び止められてしまった。
反射的にぴくっと止まる、私の体。
え……、こんなにはっきり言ったのに、帰らせてくれないの?!
「はい………」
もう、ほんと早く帰らせて………。
私がそういう思いを込めて、振り向いた先には。
「───後悔だけはしてはならんぞ。」
はっきりと、耳に入ってきた言葉。
そこには、とても優しく笑っている松原先生がいて。
つい、また長話を聞かされるものだと思っていたから、
私は呆然としてしまった。
え……?
何でいきなり…。
「先生が言いたかったのはこれだけじゃ。」
先生が最後にそう言って、私はハッとなる。
『後悔だけはしてはならん』……。
そう、松原先生が言った意味がどんどん理解できてきて。
…何だか、先生に背中を押されたみたい。
「───はいっ!!」
そう言って、教室へと急いだ。
……私は、今から勇也に想いを告げに行く。
松原先生が、どうして私にそんなことを言ったのかはわからない。
だけど、
後悔だけは、したくない。
例えそれが……、
───最悪な結末だったとしても。