♡ワケあり彼女と極秘恋愛♥
私はかばんを両手でギュッと握りしめ、
ただスタスタと歩いていく。
「……の…」
──辛い。
「…み…の」
──心臓が、痛くて痛くてたまらない。
このまま、強く目をつぶってしまったら
涙がこぼれてきそうだ。
…でも、私の中ではもう区切りはつけたんだ。
だから、だから──…
「水野!」
「えっ?」
突然 呼ばれた自分の名前にハッとなって、後ろを振り返った。
「えっと…、榎本くん…?」
振り返ったそこには、学年の中で勇也の次にモテると言われている、
榎本(えのもと)くんが立っていた。
クラスは違うけど、何回か話しかけられたことはある。
…どんな話をしたかは、忘れちゃったんだけど。
とても話しやすい雰囲気で、本人自身もフレンドリーなため、
男女からの人気がすごい。
…だけど、有紗はそんな榎本くんを「なんか引っかかるのよね…」と言って、
あんまり好きではなさそうだった。
「もうさ、何回呼んでも気付いてくれないから、俺 無視されてるのかと思ったよ」
榎本くんは、その整った顔であはは、と笑う。
…多分、この榎本くんの笑顔に何人もの女子が心臓を鳴らしたんだろう。
そう思うほど、今の私にはその笑顔は眩しかった。
「あはは、ごめんね…?ちょっとボーッとしてて…。
それで、どうしたの?」
私がそう聞くと、あー…、と目を泳がせて、私から少し離れたところで足を止めた。