♡ワケあり彼女と極秘恋愛♥
──ガンッ!!!
壁を思いっきり蹴る勇也。
私たち3人以外に誰もいないから
廊下にその音だけがこだまする。
さっきまで笑っていた榎本くんも、勇也が大声を上げたことで、さすがに黙った。
──勇也…っ?
こんなに声を上げて怒るなんて、勇也らしくない。
私が知っている、あの優しかった勇也の姿が見えない。
「いい加減にしろ…」
その時の榎本くんを睨む勇也の目は、
怒りに満ち溢れていて。
「それ以上……、言うんじゃねぇ…!」
…怖い。
もう何が何だかわからなくて、
こんなに勇也が怒っているのは私のせいなのかと思って。
「…っ、」
私の体は小刻みに震える。
そんな勇也に、榎本くんが一瞬 ひるんだ。
そして、バッと勇也の手を振りほどいて舌打ちをする。
「……ッチ、あーあ、もう本当だるいわ。あと少しだったのに」
そう吐き捨てると榎本くんは私たちに背を向けて、立ち去ろうとする。
私はただ立ちすくみながらその様子を見ているだけ。
ズボンのポケットに両手をつっこんで歩く榎本くんは、いつも通りで。
だけど突然、ピタッと足を止めた。
「…まぁ、でも。諦めたわけじゃないけどね…?」
そして、榎本くんは少し振り返って、ちらっと私を見た。
「……!」
目が合った瞬間、目の前に迫る榎本くんの顔を思い出して。
背筋がぞっと凍りつく。
「いいからさっさと帰れよ」
私が怯えていたのがわかったのか、勇也は榎本くんに向かってそんな言葉を投げかける。
「はいはい、わかったから」
そう言って榎本くんは、ダルそうに私たちの視界からいなくなった。