初恋の終着駅
「今日こそ、どんな顔なのか確かめてみる?」
耳元で尋ねてみたら、香澄はふるふると首を横に振った。
「いいよいいよ、声だけ聴いてたらいいんだってば、顔はどっちでもいいの」
「もしかしたら、思いっきり好みな顔かもしれないよ?」
「え……そんなこと……ないない」
精一杯否定する香澄の声を、車掌さんの低音が掻き消した。もうすぐ次の駅に到着することを告げる声。
もっと聴いていたくて、耳を澄ました。
もしかすると私の方が、車掌さんの顔を見てみたいと思っているのかもしれない。
学校の最寄の坂代駅に到着するまでの約15分、新学期の憂鬱など忘れてしまえそうなほど声に耳を傾けていた。