初恋の終着駅


香澄のおでこの代わりにカウンターにぶつけた諏訪さんの手の、手根骨の辺りが赤くなっている。あの音からすると結構痛かったと思うのに、諏訪さんは平気な顔で穏やかに笑ってる。


その顔を見ていたら、胸の奥の方がぐらりと揺らいだ。揺らぎの正体が何かはわからないけど、不安を伴っていることだけはわかる。


「すみません、本当にありがとうございました」

「いいよ、気にしないで、怪我がなくてよかった。定期も見つかったし」


何度も頭を下げる香澄と優しく微笑む諏訪さんを見ていると、ますます複雑な気持ちになっていく。


香澄の定期券は、坂代駅のホームに落ちていたらしい。私たちが諏訪さんに話した後、通勤のため降りたお客さんが拾って届けてくれたという。


もっと念入りに探していたら、自分たちで見つけられていたかもしれない。





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