初恋の終着駅


私たちは顔を見合わせた。目を見開いて、僅かに口を開けて、同じような顔をして。


香澄が緩んだ顔を隠すように、素早く両手で頬を覆った。


そして一言、


「やっぱ、いい声……」


と零す。


両手で顔を隠したのは、本当に隠すつもりだったからじゃない。咄嗟に手が動いてしまっただけなのは承知済み。


目尻が下がっているのは私から丸見えだし、私だって顔が緩んでる。


「うん、いい声だね」


私が返すと、香澄が口角を上げて大きく頷く。


この車掌さんの声を聴くのも久しぶり。お腹の奥底に沁みてくるような優しい低音。きっと映画の吹替えやアニメの声優さんなら、二枚目の役に違いない。いや、この声なら三枚目でもいいかな。


どちらにしても声から想像する顔は、きっと男前だろうというのが私たちの結論。

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