秘密
*その3*
誰かを誘って出掛ける。
所謂デートってやつ。
何年振りだろう。最近付き合った女とは会ってセックスするだけ、が多かったから。
こんな風に腹の底から笑ったり、楽しく思える事なんかなかったな。
触れ合ったりしないのに見てるだけで愛おしさが溢れて来る。
あぁ、俺、こんなにもこいつのこと好きになってたのか。
再認識してしまった。
試されてダメだしだったら?
付き合えません、だったら?
そうならないようにすればいいだけのこと。
「ナナ、昼メシどうする?」
ひとしきり水族館を堪能し、気に入ったらしいペンギンのぬいぐるみを買ってやった。
ペンギンを抱きしめてナナは振り返る。
ショートカットの茶色いくせ毛がふわっとゆれる。
腹の底でドクン、と波打つ。
「この前のイタリアン!美味しかったからまた行きたいです。」
にっこり笑う可愛い表情にやられる。
「お前、わざとか。」
「はい?」
「その仕草。喰われるぞ、俺に。」
頭をポンポン、として通り過ぎた俺の後をついて来る。
何も言わなくなってしまったナナに、なんでもない、と言おうと振り向いた。
「ナナ?」
泣きそうな顔をしていた。
「どうした。」
近寄ると一歩下がる。
「?冗談だぞ、さっきの。ごめん、嫌だったか。」
そう言うと首を横に振る。
「なんでもないです…」
「言いたいことはちゃんと言おう。伝えないと分からないことだってあるんだ。」
そう言うとナナは首を横に、さらに強く振る。
「なんか悲しくなっただけ。…それだけ
。」
「そっか。じゃ、行こう。」
手を握る。
「これ位は許してくれる?」
「…うん。」
なんだろう。
言いたくない何かがあるんだろうか。
圭も何か含んだ物言いをしていた。
ーナナを守れる力があるのかー
あれは、どういう意味なんだろうか。
悲しくなっただけ。
なぜ、悲しくなるんだ。
それをどうすれば笑顔に変えてやれるのか、井村にはわからなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ペンギン。
大好きなペンギンのぬいぐるみをポンと買ってくれた。
眺めてたら“好きなんだろ”って。
好き。
どんな感情だっけ?
この胸の中のモヤモヤは好きって気持ちじゃないよね。
悲しそうに笑う課長を見ていたら辛くなった。
だってこんなに素敵な人だ。
付き合いたいって女の子は沢山いるハズなんだ。
なのにその大切な時間をこんなあたしのために使ってくれてる。
どれだけ課長が好きでいてくれてもムリなのに。
あたしには人を好きになる資格なんかない。
ー一生地獄へ落ちてろ、淫乱女。ー
耳に甦るあの言葉。
あの日、地獄へ叩き落とされたあたしはもう誰も好きになれない烙印を押された。
「ナナ?具合悪いのか?顔色悪いぞ。」
ふいに井村の声が耳に届く。
低い声。
ヘラヘラしてるように見えてたな、ちょっと前までは。
でも…素の課長は違ってた。
優しい。
好きになれたらよかったのに。
それでもまだズルズルとお試しを続けてしまうんだろうな。
居心地のいい、彼の横で。
あたし、ズルいね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
所謂デートってやつ。
何年振りだろう。最近付き合った女とは会ってセックスするだけ、が多かったから。
こんな風に腹の底から笑ったり、楽しく思える事なんかなかったな。
触れ合ったりしないのに見てるだけで愛おしさが溢れて来る。
あぁ、俺、こんなにもこいつのこと好きになってたのか。
再認識してしまった。
試されてダメだしだったら?
付き合えません、だったら?
そうならないようにすればいいだけのこと。
「ナナ、昼メシどうする?」
ひとしきり水族館を堪能し、気に入ったらしいペンギンのぬいぐるみを買ってやった。
ペンギンを抱きしめてナナは振り返る。
ショートカットの茶色いくせ毛がふわっとゆれる。
腹の底でドクン、と波打つ。
「この前のイタリアン!美味しかったからまた行きたいです。」
にっこり笑う可愛い表情にやられる。
「お前、わざとか。」
「はい?」
「その仕草。喰われるぞ、俺に。」
頭をポンポン、として通り過ぎた俺の後をついて来る。
何も言わなくなってしまったナナに、なんでもない、と言おうと振り向いた。
「ナナ?」
泣きそうな顔をしていた。
「どうした。」
近寄ると一歩下がる。
「?冗談だぞ、さっきの。ごめん、嫌だったか。」
そう言うと首を横に振る。
「なんでもないです…」
「言いたいことはちゃんと言おう。伝えないと分からないことだってあるんだ。」
そう言うとナナは首を横に、さらに強く振る。
「なんか悲しくなっただけ。…それだけ
。」
「そっか。じゃ、行こう。」
手を握る。
「これ位は許してくれる?」
「…うん。」
なんだろう。
言いたくない何かがあるんだろうか。
圭も何か含んだ物言いをしていた。
ーナナを守れる力があるのかー
あれは、どういう意味なんだろうか。
悲しくなっただけ。
なぜ、悲しくなるんだ。
それをどうすれば笑顔に変えてやれるのか、井村にはわからなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ペンギン。
大好きなペンギンのぬいぐるみをポンと買ってくれた。
眺めてたら“好きなんだろ”って。
好き。
どんな感情だっけ?
この胸の中のモヤモヤは好きって気持ちじゃないよね。
悲しそうに笑う課長を見ていたら辛くなった。
だってこんなに素敵な人だ。
付き合いたいって女の子は沢山いるハズなんだ。
なのにその大切な時間をこんなあたしのために使ってくれてる。
どれだけ課長が好きでいてくれてもムリなのに。
あたしには人を好きになる資格なんかない。
ー一生地獄へ落ちてろ、淫乱女。ー
耳に甦るあの言葉。
あの日、地獄へ叩き落とされたあたしはもう誰も好きになれない烙印を押された。
「ナナ?具合悪いのか?顔色悪いぞ。」
ふいに井村の声が耳に届く。
低い声。
ヘラヘラしてるように見えてたな、ちょっと前までは。
でも…素の課長は違ってた。
優しい。
好きになれたらよかったのに。
それでもまだズルズルとお試しを続けてしまうんだろうな。
居心地のいい、彼の横で。
あたし、ズルいね。
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