秘密
*その6*
「課長!ナナが!」
ぼんやりと壁にもたれていた俺の元に山本が息を切らして走ってきた。
「どうした?」
「わかんないんですけどっ、急に飛び出しちゃって!」
聞き終わる前に走り出した。
「山本!早瀬と俺は用事があって出掛けたことにしといてくれ!」
「はいっ!」
何があるかわからない。
ナナの心にはなにか闇が潜んでいる。
それにはすぐ気付いた。だけど。
彼女が言いたくないならそれまでだと思っていた。
どこだ⁉
どこに行った⁉
スマホを取り出し電話をかける。
コール音はするものの、出ない。
畜生!
あちこち走り回って探した。
途中、圭史さんに連絡を入れる。
彼もさがしてくれる、という。
思い当たるのは、会社から少し離れた街にある小さな神社。
そう言われてすぐに向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
またここに来ちゃった。
ぼんやりとブランコに腰をかける。
キィ、ときしんだ音がした。
もう、嫌だ。
好きとか嫌いとか、そういうの、全部嫌。
なんで上手くいかないの。
あれからもう何年も経ったのに。
何も変わって見えない風景。
そこだけ、時が止まったままみたいな。
大嫌い。
こんなあたし。
課長は何にも悪くないのに八つ当たりなんかして。
何度も鳴ってた携帯。
見なくたって誰からかわかる。
優しい人だから。
あたしの言葉に傷付いたはずなのに、あたしを心配してくれるんだね。
目の前の通りに見慣れた車が止まった。
「ナナ!」
スーツ姿の圭だ。
「け…い、」
「そこに居ろ!」
駆け寄ってくる圭。
あの日もこうやって助けに来てくれたよね。
でも、ナナの元に駆け出してきたのは、圭ではなく、井村だった。
「ナナ!」
「な、、、んで?」
ここに居る訳がない。
この場所を知って居るのはあたしと圭だけ。
強い力で抱きしめられて苦しくなる。
「ナナ、よかった、居た、ホントに居た…」
小さな声で呟く課長の声は震えていた。
「圭、」
見上げた先に居た兄。
優しく微笑む、いつもあたしを守ってくれていた圭史。
「ナナ、そいつに守って貰え。
大丈夫だ、こいつなら。俺が認める。」
圭以外に守ってくれる人がいるの?
でもそしたら…
でも。
「何があってもいい、お前が誰だろうが、何だろうが好きなんだ。この気持ちは変わらない。」
「だ、だって!元カノに愛してるって」
「言い訳くらい聞けよ。
あいつにやり直したいって言われた。だからお前がいるから無理だと答えた。
納得出来なかったのか、また言いにきたのがこの前だ。だから言ったんだ。ナナを愛してる、って。」
「‼…う、、、嘘…」
きつく抱きしめられたまま、なおも井村は話を続けた。
「嘘じゃない。こんな気持ちになったのは生まれて初めてなんだ。
手に入らないのに、愛しくて。目が合うだけで幸せで。
そりゃ、身体がさみしい気持ちにはなるけどそれ以上に満たされた気持ちになるんだよ、お前と居ると。」
身体を離し見つめられる。
逃げないふたつの瞳。
「お試しとかじゃなく、マジで。
マジで俺の女になって、ナナ。」
ぶわっと溢れ出した涙。
なんだ、勘違い、なんだ、よかった、あたし、嫌われてなかった…!
「あー、アツアツのラブシーンを邪魔して悪い。いい大人なんだから、その続きは仕事終わらせてからにしろよ。送る、車に乗れ。」
圭が何とも言えない表情で言う。
「圭史さん、すごい邪魔してくれますね。」
ナナを立たせると井村が苦笑いしながら圭史の胸に拳を当てる。
「そらお前、」
「シスコン。」
図星すぎて笑えない。
でも笑い出したのはナナだった。
3人で笑い合う。
嬉しかった。
守られてる。
圭に。
翔太にも。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぼんやりと壁にもたれていた俺の元に山本が息を切らして走ってきた。
「どうした?」
「わかんないんですけどっ、急に飛び出しちゃって!」
聞き終わる前に走り出した。
「山本!早瀬と俺は用事があって出掛けたことにしといてくれ!」
「はいっ!」
何があるかわからない。
ナナの心にはなにか闇が潜んでいる。
それにはすぐ気付いた。だけど。
彼女が言いたくないならそれまでだと思っていた。
どこだ⁉
どこに行った⁉
スマホを取り出し電話をかける。
コール音はするものの、出ない。
畜生!
あちこち走り回って探した。
途中、圭史さんに連絡を入れる。
彼もさがしてくれる、という。
思い当たるのは、会社から少し離れた街にある小さな神社。
そう言われてすぐに向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
またここに来ちゃった。
ぼんやりとブランコに腰をかける。
キィ、ときしんだ音がした。
もう、嫌だ。
好きとか嫌いとか、そういうの、全部嫌。
なんで上手くいかないの。
あれからもう何年も経ったのに。
何も変わって見えない風景。
そこだけ、時が止まったままみたいな。
大嫌い。
こんなあたし。
課長は何にも悪くないのに八つ当たりなんかして。
何度も鳴ってた携帯。
見なくたって誰からかわかる。
優しい人だから。
あたしの言葉に傷付いたはずなのに、あたしを心配してくれるんだね。
目の前の通りに見慣れた車が止まった。
「ナナ!」
スーツ姿の圭だ。
「け…い、」
「そこに居ろ!」
駆け寄ってくる圭。
あの日もこうやって助けに来てくれたよね。
でも、ナナの元に駆け出してきたのは、圭ではなく、井村だった。
「ナナ!」
「な、、、んで?」
ここに居る訳がない。
この場所を知って居るのはあたしと圭だけ。
強い力で抱きしめられて苦しくなる。
「ナナ、よかった、居た、ホントに居た…」
小さな声で呟く課長の声は震えていた。
「圭、」
見上げた先に居た兄。
優しく微笑む、いつもあたしを守ってくれていた圭史。
「ナナ、そいつに守って貰え。
大丈夫だ、こいつなら。俺が認める。」
圭以外に守ってくれる人がいるの?
でもそしたら…
でも。
「何があってもいい、お前が誰だろうが、何だろうが好きなんだ。この気持ちは変わらない。」
「だ、だって!元カノに愛してるって」
「言い訳くらい聞けよ。
あいつにやり直したいって言われた。だからお前がいるから無理だと答えた。
納得出来なかったのか、また言いにきたのがこの前だ。だから言ったんだ。ナナを愛してる、って。」
「‼…う、、、嘘…」
きつく抱きしめられたまま、なおも井村は話を続けた。
「嘘じゃない。こんな気持ちになったのは生まれて初めてなんだ。
手に入らないのに、愛しくて。目が合うだけで幸せで。
そりゃ、身体がさみしい気持ちにはなるけどそれ以上に満たされた気持ちになるんだよ、お前と居ると。」
身体を離し見つめられる。
逃げないふたつの瞳。
「お試しとかじゃなく、マジで。
マジで俺の女になって、ナナ。」
ぶわっと溢れ出した涙。
なんだ、勘違い、なんだ、よかった、あたし、嫌われてなかった…!
「あー、アツアツのラブシーンを邪魔して悪い。いい大人なんだから、その続きは仕事終わらせてからにしろよ。送る、車に乗れ。」
圭が何とも言えない表情で言う。
「圭史さん、すごい邪魔してくれますね。」
ナナを立たせると井村が苦笑いしながら圭史の胸に拳を当てる。
「そらお前、」
「シスコン。」
図星すぎて笑えない。
でも笑い出したのはナナだった。
3人で笑い合う。
嬉しかった。
守られてる。
圭に。
翔太にも。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇