秘密

*その3*

「その先生、誰だ。」


怒りが声になる。

低く低く、響き渡る声に自分でも驚いた。

「え?」
「どこのどいつだ。殺してやりたい。」


ナナを。

圭史さんを。

2人を地獄へ叩き落とした奴。

今度は俺がそいつを地獄へ送ってやる。


「今はどこにいるかもわかんないよ。」

「今の話、忘れるのはお前の方だ、ナナ。」


ぎゅっと抱きしめる。


細い身体。

この胸の内にどれだけの悲しみを抱えてきたんだろう。

「お前は忘れろ。俺が忘れさせてやるから。」
「え?」

頬に手を当て上を向かせる。


真っ直ぐに見つめる瞳。

そらすことなく、射抜く黒い瞳。

「俺がお前を変えてやるよ。だから安心しろ。お前は悪くない。

守るから。俺が、お前を守るから。」

そう告げた途端、大きな瞳が潤んで涙が溢れた。
「でもっ、あたしがバカだから圭を巻き込んで辛い思いさせて」
「辛かったのはお前もだろ、ナナ。」

ポロリと流れた涙を指で拭う。

「我慢したんだよな、13歳のナナは。大人に迷惑かけたくなくて。戸惑って、悩んで、でも言い出せなかった。違うか?」

次々に涙が溢れる。

吐き出してしまえばいい。
涙と一緒に捨ててしまえばいい。

呪縛から解き放て。

圭史さんの言葉の意味がようやく理解できた。

「言ってもいいの?、、、あたし、翔太さんがっ」

「ナナ、もう一度、俺が先に言う。」
ゆっくりと口付けて、深く深く味わうようなキスをする。

逃げる舌を追いかけて、絡み合うように求める。

慣れないからなのか、戸惑うようにおずおずと応え始めるナナ。

背中に回されたナナの細い腕に力が入り、ぎゅっとしがみつかれ狂おしいほどにキスを求めてくる。


唇が離れ熱い吐息が漏れる。

鼻をくっつけて、目の前の愛しい女に愛を告げる。


人生初の告白だ。


「ナナ、愛してる。俺のものになれ。」

「うー、、、」

感極まったナナは、声を上げて泣きじゃくる。
小さな、小さな子どもみたいに両手を広げて抱きついて。

「ナナ、お前の気持ちは?」


「す、、きっ、翔太さんが好きで好きでしかたないのっ、苦しいの!」


こんな嬉しいことはない。


宝物が手に入ったみたいだ。


「お前の話聞いてさ。
俺、最低だなって思ったよ。」


ナナへの感情に気付く前。
来るもの拒まずで女にだらしがなかった自分。

とりあえず避妊だけはちゃんとしてたけど、抱けるなら誰だってよかった。

イケればそれでOK。

集まる女も必然的に似たり寄ったり。

心の隙間は埋まらない。

心が渇望するんだ。

もっと、もっと、って。

「一晩で3人の女を抱いたこともあったな、若い時。バカだよなぁ。そんなの、自慢にもなりゃしねぇのにさ。

沢山経験するのもいいかもなんだけどな、今は違うって言える。

たった1人の女をどれだけ幸せに出来るか。

それが大切なんだよな。」


ナナがうん、と頷いた。


< 19 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop