秘密

*その3*

喧嘩をするほど仲が良い。

…と、言うのだろうか。


少し前から井村のマンションで同棲を始めた2人。
マンションに帰り、どちらからともなく手を繋ぎ。服の上から身体を弄られる。


「麻美さんに良い言葉もらったの。」
「ん?何だって?」

ベッドの淵に座りナナの服を脱がせながら井村は問いかける。

「欠落品でいい、互いの欠落部分を埋め合えばいい、パズルのピースみたいに、2人でひとつになれたらいいって。」

首筋にちゅ、と口付けながらへぇ、と感嘆の声をあげる。

「すごいな、あの人。あの圭史さんを子供扱いするだけでも凄いと思うのに…。」

そっと身体を横たえて、覆いかぶさる様に全身にキスの雨を降らす。

「ん…っ、でも…素敵な言葉…じゃないっ…」




「ナナ、赤ちゃん欲しくなった?」
「え?」

いきなり話が変わり、ナナは驚いてしまった。
「どして?」
「なんか羨ましそうにお腹を撫でてただろ。」


あぁ、そういう風に見えたのか。

裸の身体を起こし、井村の首に腕をまきつけて頬に口付ける。

「羨ましいけど、まだだよね。
もっと翔太さんと2人きりを堪能したいかな。辛い時間が沢山あった分、翔太さんに甘えたい。」


素直に言えた。

本音をちゃんと言えたよ、麻美さん。

「今でもセックスするの、怖いよ。思い出す瞬間がある。でも、翔太さんに愛されたいし、あたしも翔太さんを愛したい。乗り越えなきゃならないって思ってるよ。

乗り越えて、それであたしでいい、って翔太さんがいってくれるなら、その時は赤ちゃん産みたいな。」


泣きそうになりながらも、ちゃんと言えた。
ちゃんと話を聞いてくれた。

ありがとう、って言おうとした瞬間。

「結婚するか、ナナ。」
「え?」

時が止まる。


「俺の嫁さんになるか?」
「え、だって、まだ」

…今2人きりを堪能したいって話したばかりなのに?

「付き合ってる、ってのと結婚してる、ってのじゃ男は責任感が違うんだよ。

俺もお前が言う様に、辛い記憶を乗り越えていかなきゃならないと思ってるけどさ。

彼氏、彼女でなくて『夫婦』で乗り越えるべきだと思ったんだよ。」


え?


結婚?


「こうやって同棲してるし、あとは籍を入れたらはい、夫婦、だろ。」


え?そんな軽い感じなの?

「ま、俺はそこまで考えてるよ、って事。話の続きは後。今はこっちに集中して…」


胸の頂を吸われて身体が仰け反る。

全身に電流が流れたみたいだ。

「あ…やだ…っ」

翻弄されてくにゃくにゃにされて。


結婚か…。


いつかしたい。
それが、明日でも明後日でも。

「集中しろって、ナナ。」
「あ…やだっ、それ、やだ!怖い!」

いつまでたっても慣れない愛撫に翔太は苦笑いする。

「大丈夫だって。俺だから。ちゃんと目を開けて俺を見ろ、ナナ。」

ふるふると首を緩く振るナナの目には涙。

過去の恐怖が残るからか、どうしても越えられない壁みたいなものがあった。

どうすれば心の底からナナを愛せるのか。
急いではいけない問題だから、ゆっくりと、ゆっくりと強張るナナの身体を解していく。

愛してる、って沢山囁きながらひとつになった。


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