秘密

*その2*

到着したのは2人にとって思い出の場所だった。



「ここ…」
「ん。俺たちの始まりの場所。」

市内で1番大きなあのホテル。

ロビーまで手を引かれ歩く。

この場所で翔太に初めて抱かれた。
あの忌わしい記憶を上書きして新しい自分をスタートさせた場所。


「どうして?」

チェックインしてカードキーを受け取ると再び翔太に手を取られ、歩き出す。

「ちょっとね。後でわかるから、黙ってついてくればいいよ。」


さっきまで嫉妬で不機嫌だった人とは思えないほどの、とろける様な笑顔に胸がときめく。

同時にお腹の下辺りがズクんと疼く。


「この部屋…全く同じとこ…翔太さん?」

何を考えているのかわからないから、不安で堪らない。

カチリ、と鍵が開き手を引かれ部屋に入る。


そこにあったのは…。



「ど…して?なんで?だってこれ、」


トルソーに着せられた真っ白いウエディングドレス。
前に雑誌で見かけて、翔太とふたりでこれがいいね、似合いそうだねってはなしていたドレス。

「ナナを嫁さんにしたいんだ。誰にも渡したくない。だから…圭史さんと麻美さんに手伝ってもらって準備して、サプライズで伝えたかった。」


みるみる間にこぼれ落ちた涙。
嘘みたい。
嘘じゃない?
あたし、夢を見てる?


「ちゃんと言いたかったんだ。

…ナナ、結婚しよう。

幸せにする。幸せにするから、ナナも俺を幸せにしてくれ。」



ドレスの前での誓い。


「…うん、幸せにするっ」

飛びつく様に抱きついた。

いつもと変わらない週末だった。

ついさっきまで。

まさかプロポーズされるなんて。

「明日、ここのチャペルで式を簡単にするから。
その後、届けを出しに行こう。
夫婦になろう。」

ひょい、と抱き上げられびっくりしてしがみつく。

「ナナがいない職場はさみしくて堪らない。あれ、俺が部長にナナと結婚する、って言ったからなんだよ。」抱き上げられたまま口付けられる。

深く甘いキス。

「本当にあたしでいいの?」

ベッドに下ろされぎゅ、と抱きしめられる。

「ナナがいいんだ。」

過去に地獄の底みたいなとこまで叩き落とされた自分を、愛し救ってくれた愛おしい人。


「あたしも…翔太さんがいい。翔太さんじゃなきゃ嫌。」


お願い、と強請られて苦笑いをする。

少し前まで“怖い” “嫌”を繰り返していたはずのナナ。

「お仕置きも、忘れてないよな?朝まで抱き潰してやるから覚悟しろよ。」


2人だけの世界に溺れていく…。


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