秘密

*その3*

朝から快晴。

本当ならブライダルエステだのドレスのフィッティングだの、忙しい時期を全てすっとばした2人の、2人だけの結婚式。

慌ただしくエステを済ませ、フィッティングしたドレスはびっくりするくらいナナに丁度いいサイズで。

もともと背が高く痩せていたナナ。

見映えしないわけがない。

ホテルのブライダル部門の女性が是非、と写真撮影をしてくれた。

その写真を使ってイベント案内を作りたいと言われたのだ。

「こんなお似合いの美男美女、モデルさんでもなかなかいませんよ。」

言われて悪い気はしないから、女って現金だな、と思ってしまう。

隣に立つ翔太は本当にモデルみたいだ。


白のベースにサテンの黒と赤がラインで差し込んであるタキシード。

背が高い翔太だから似合う衣装だ。

「何?」

まじまじと見ていたら翔太が不思議そうな顔をする。

「素敵。似合ってる。」

「ナナも。ヤバイよ、今すぐ抱きたくなる。」

朝まであたしを離さなかった人が言うかな。

「というか、脱がせたい。いや違うか、脱がせないまま裾を持ち上げてする方がそそるかな。」

「なっ…」

ニヤリ。

またからかわれたんだ。

「もう!また揶揄ってる!」

「はははは!ごめんごめん。でも本気。今晩…ね。」

脱ぐ脱がないで揉めるのは夜のお話…。






「よかったな、ナナ。」

チャペルで圭史と麻美が待っていた。
その後ろには…。


彩と何故か高木くんに沢渡先輩と彼女の杏ちゃん。
お父さんとお母さん。

初めて会う、翔太さんのご両親とお兄さん、妹さん。

翔太さんの同期で仲がよかった木村さんと長谷川さん。

本当に仲良しの仲間、それと家族だけの式。


準備は全て翔太さんがやってくれていた。

何も知らなかったのはあたしだけ。

圭と麻美さんがかなり協力してくれたみたいだけど、嬉しかった。


あたしみたいなダメな人間は結婚なんて出来ないってずっと思ってたから。


誓いの言葉を宣言し、署名する。

指輪の交換でちゃんと準備されていたマリッジリングに涙が出た。


翔太さんの左手薬指にはめる。

そしてあたしの左手薬指にも。


幸せが溢れて涙に変わる。

なんて幸せ。


「幸せにするからついてこいよ、ナナ。」
「はい!」





過去の辛い記憶を上書きする幸せ。



この先もずっとずっと2人に訪れる幸せは途切れない。





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