秘密
*その5*
週末。
「今日は残業無しだからなー。」
呑気な部長の声がする。
?
なんで残業無しなの?
みんなは不思議そうな顔もせず一心不乱に仕事を片付けている。
「彩、なんで残業無しなの?」
隣のデスクでこっそり鏡を見ながらメイクを直している彩に小声で問いかける。
「え?ナナ聞いてなかったの?今日新入社員の歓迎会よ?」
さも当たり前、とばかりに念入りにメイクをチェックしている彩。
「…っていうか、彩。あんた何力いれてるの?」
「当たり前じゃん!全課集まっての飲み会なんて、1年に1回しかないんだから!営業の沢渡さんとか総務の岸さんとか、うちの会社のイケメンが一斉にそろうんだよ⁉」
それが目当てか。
はぁ、とため息がでた。
不参加にして帰ろう。
「全員参加だから、今回は。」
真後ろで声がして驚いて振り向くと、そこにいたのは井村課長だった。
「ちゃんと仕事終わらせて参加して、早瀬。」
ぽん、と肩に手が置かれ、井村課長は通り過ぎながら耳元で短く囁いた。
「楽しみにしてる。」
ちょっと…なんなの⁉強制参加なわけ⁉
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
嫌そうな彼女の表情が面白い。
滅多に飲み会に参加しない彼女の先を読んで“不参加禁止”を言い付けて正解だった。
何もしなくても、彼女を見ているだけで楽しい。
ひとり百面相をしている。
少しだけ離れた席で、部長のくだらない話に相槌をうちつつビールを飲む。
目だけは彼女を…早瀬 ナナを追いながら。
新入社員歓迎会と銘打って開かれた会社の全体飲み会。
色んな部所のいろんなやつが参加していて、なかなかない面白さがある。
不意に彼女に近づく人影に気付いた。
…営業の沢渡か。
あいつ、彼女いたはずだろ。
なんで早瀬に話しかけてるんだ。
何を話してるんだ?
イライラし始めた自分に喝を入れタバコに火を点ける。
新入社員なんてほったらかしであちらこちらでナンパまがいの声かけが始まってる。
気をつけないと彼女をもっていかれてしまう。
…それはないか。
バッサリ切って捨てるだろうな。
半笑いの顔でタバコをふかしていたら、懐かしい甘い香りがした。
隣に…元カノ。
「元気?翔太。」
受付嬢をやっている秋元 遥だ。
「普通に。」
「相変わらずだね。冷たい。さっきから誰を追ってるの?観察してない?」
ニコニコしながらもこちらを探るのはやめない遥にイライラが増す。
「だから何?捨てた男に用はないだろ。」
吐き捨てながら目だけは早瀬を追う。
あ。
沢渡に携帯番号教えやがったな!
俺だって知らないのに!
「あ、早瀬さん見てたのね。彼女、難しいわよ。翔太でも無理じゃない?」
「なんだ、それ。」
何か知ってる風に言うのはこいつの手だ。ひっかかるもんか。
「珍しく参加してるなと思っただけだ。
お前には関係ないだろ。」
「翔太、あたしまだ翔太が好きよ。」
いきなり何を言うかと思えば。
「は?」
ひどく苛立つ。
邪魔するなよ。俺は彼女を見られたら幸せなんだ。
「ね、またやり直そ。この後予定ないの。」
するりと腕に絡まる遥の華奢な手。
2ヶ月前まではこんな風にされたら下半身が確実に反応してた。
白くて柔らかい遥の肌。
でも、もう反応しない。
俺には必要ないんだ。
「他を当たれ。俺は今までの適当なやり方を変えたんだ。お前には応えてやれない。」
遥の腕を振り払い、タバコをもみ消し席を立つ。
そのくだらないやりとりの間に早瀬 ナナの姿が消えていた。
「今日は残業無しだからなー。」
呑気な部長の声がする。
?
なんで残業無しなの?
みんなは不思議そうな顔もせず一心不乱に仕事を片付けている。
「彩、なんで残業無しなの?」
隣のデスクでこっそり鏡を見ながらメイクを直している彩に小声で問いかける。
「え?ナナ聞いてなかったの?今日新入社員の歓迎会よ?」
さも当たり前、とばかりに念入りにメイクをチェックしている彩。
「…っていうか、彩。あんた何力いれてるの?」
「当たり前じゃん!全課集まっての飲み会なんて、1年に1回しかないんだから!営業の沢渡さんとか総務の岸さんとか、うちの会社のイケメンが一斉にそろうんだよ⁉」
それが目当てか。
はぁ、とため息がでた。
不参加にして帰ろう。
「全員参加だから、今回は。」
真後ろで声がして驚いて振り向くと、そこにいたのは井村課長だった。
「ちゃんと仕事終わらせて参加して、早瀬。」
ぽん、と肩に手が置かれ、井村課長は通り過ぎながら耳元で短く囁いた。
「楽しみにしてる。」
ちょっと…なんなの⁉強制参加なわけ⁉
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
嫌そうな彼女の表情が面白い。
滅多に飲み会に参加しない彼女の先を読んで“不参加禁止”を言い付けて正解だった。
何もしなくても、彼女を見ているだけで楽しい。
ひとり百面相をしている。
少しだけ離れた席で、部長のくだらない話に相槌をうちつつビールを飲む。
目だけは彼女を…早瀬 ナナを追いながら。
新入社員歓迎会と銘打って開かれた会社の全体飲み会。
色んな部所のいろんなやつが参加していて、なかなかない面白さがある。
不意に彼女に近づく人影に気付いた。
…営業の沢渡か。
あいつ、彼女いたはずだろ。
なんで早瀬に話しかけてるんだ。
何を話してるんだ?
イライラし始めた自分に喝を入れタバコに火を点ける。
新入社員なんてほったらかしであちらこちらでナンパまがいの声かけが始まってる。
気をつけないと彼女をもっていかれてしまう。
…それはないか。
バッサリ切って捨てるだろうな。
半笑いの顔でタバコをふかしていたら、懐かしい甘い香りがした。
隣に…元カノ。
「元気?翔太。」
受付嬢をやっている秋元 遥だ。
「普通に。」
「相変わらずだね。冷たい。さっきから誰を追ってるの?観察してない?」
ニコニコしながらもこちらを探るのはやめない遥にイライラが増す。
「だから何?捨てた男に用はないだろ。」
吐き捨てながら目だけは早瀬を追う。
あ。
沢渡に携帯番号教えやがったな!
俺だって知らないのに!
「あ、早瀬さん見てたのね。彼女、難しいわよ。翔太でも無理じゃない?」
「なんだ、それ。」
何か知ってる風に言うのはこいつの手だ。ひっかかるもんか。
「珍しく参加してるなと思っただけだ。
お前には関係ないだろ。」
「翔太、あたしまだ翔太が好きよ。」
いきなり何を言うかと思えば。
「は?」
ひどく苛立つ。
邪魔するなよ。俺は彼女を見られたら幸せなんだ。
「ね、またやり直そ。この後予定ないの。」
するりと腕に絡まる遥の華奢な手。
2ヶ月前まではこんな風にされたら下半身が確実に反応してた。
白くて柔らかい遥の肌。
でも、もう反応しない。
俺には必要ないんだ。
「他を当たれ。俺は今までの適当なやり方を変えたんだ。お前には応えてやれない。」
遥の腕を振り払い、タバコをもみ消し席を立つ。
そのくだらないやりとりの間に早瀬 ナナの姿が消えていた。