秘密

*その2*

焦った様に出てきた井村に対し、余裕の態度で返す沢渡。


(うちの会社のイケメンが2人。

彩が見たら騒ぎそうだわ。)


「他の奴が先かと思ったが、意外や意外、井村が一番乗りだったな。」

「どういう意味だ、沢渡。」


ハメられた、と感じたのだろうか。

井村の物言いがいつもより苛立った感じに聞こえる。


「ナナを連れ出されて慌てただろ。言っとくが、俺は彼女一筋だからナナをお持ち帰りする事はあり得ないぜ。
ナナの兄貴に半殺しにされたくないしな、な?」


ナナを見ておちゃらけた態度の沢渡にナナは不信感を露わにする。


「沢渡先輩、嫌がらせしてるの?」
「お前連れ出したら必然的に悪者扱いだよ?イタズラくらい許して貰わないと割りに合わない。」


「先輩…?」


話の見えない井村はナナに向かい問いかけた。


「誰にも話してないんですけど…沢渡さんはあたしの兄の親友なんです。
あたしが小学生のころからの付き合いなんです。」

仕方なく話すと、あからさまにほっとした態度の井村を見て沢渡が笑った。


「いいねぇ!来るもの拒まずな井村がいよいよ本気になったかー!」


くくくっと笑う沢渡。
イライラするナナ。
呆気に取られた井村。





「あたし帰ります。」


だんまりの均衡を破ったのはナナだった。

振り向きもせず歩き去る。
元々、参加なんてしたくなかったのを井村に言われて渋々参加したんだ。
そんな井村も適当に飲んでるだけなら、帰っても問題ないだろう。
…そう思った。

何も言わずに歩き去るナナをぽかんと眺めていた井村は慌ててナナの後を追った。

後ろから沢渡の声がする。

「ナナのこと頼むな!」

「言われなくてもそのつもりだ!」








後ろから走ってきた井村から、手首を掴まれた。

「待って!」


立ち止まり、振り向く。

(課長ってこんな感じの人だったかな。)

いつも斜に構えた感じに思ってたし、来るもの拒まずだって聞いていたからすけべったらしってイメージで。


息切らして走ってきたり、沢渡との仲を勘違いして焦っていたり、見たことない一面を見てる気がする。



肩で息をしていた井村が落ち着くのを待っていた。


下を向いて、ただ沈黙していた。


「早瀬」


名前を呼ばれた


顔をあげたら、すぐ近くにイケメンの顔があって。


「なんですか?井村課長。」


職場でのやり取りの延長で答える。


「送るよ、歩きになるけど。」


そう言うなり、手をギュッと握られた。



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