週末シンデレラ番外編SS集
お蕎麦屋へ入ると、座敷に案内されて向かい合わせに座る。サラダと天ぷらの盛り合わせ、せいろそばを注文し、デザートは黒ゴマプリンにした。
揚げたての天ぷらはサクサクとしていて、粗挽きの手打ちそばは風味がよく、太めに切られているため歯ごたえがいい。
プリンも想像以上に味がしっかりしていて、もしかしたらデパートなどに入っている洋菓子屋のものより美味しいかもしれないと思った。
満腹になってお店を出ると、あたりはすっかり暗くなっていて、空には丸い月と星が輝いていた。
「明日から仕事か……この土日が夢みたいだったな」
車へ乗り込むと、征一郎さんがエンジンをかけながらポツリと呟く。
「そ、そうですね……」
「え、あっ……き、聞こえていたのか」
わたしが照れながら返事をすると、征一郎さんのほうが動揺していた。聞こえているとは思っていなかったらしい。
「聞こえてます。……というか、言われると嬉しいので、そういうことは独り言じゃなくて、ちゃんとわたしに言ってくださいね」
「ああ……できるだけ、そうするよ」
征一郎さんはハンドルを切りながら、眉をしかめて難しそうな顔をしていた。
“カオリ”として出会ってからたくさん話をしていたので忘れていたけど、こういうことが苦手な人だったのだと思い出す。
少しずつ、伝えてくれる言葉が増えるといいな。
十五分ほどすると、車がわたしのマンションに着いた。お礼を言って車から降りると、征一郎さんも運手席から出てきた。中へ入るまで、見送ってくれるらしい。
「それじゃあ、おやすみなさい」
頭を下げ、歩き出したとき、征一郎さんに「詩織」と呼ばれた。
「はい?」
足を止めて征一郎さんの様子を窺うと、オレンジ色の街灯に照らされているせいか、顔が少し赤らんで見えた。