週末シンデレラ番外編SS集
やがて注文していた料理がくる。このお店で一番人気の牛フィレ肉の赤ワイン煮込みだ。やわらかそうなお肉の上に、特製ソースがたっぷりかかっていて、見ているだけでも口の中に唾液が溢れてくる。
「美味しそう……いただきます!」
わたしは声を弾ませながら、ナイフとフォークを持った。征一郎さんも手をつけようとしていると……。
「あっ……すまない。電話だ……」
胸ポケットからスマホを取り出した征一郎さんは苦い顔をしている。
「取引先からだ……ちょっと、席を外していいかな?」
「はい」
わたしが返事をすると、もう一度「悪い」と謝りながら、外へ出て行った。
営業部は大変そうだなぁ。総務部と違って、お客さんあってのことだもんね……。
最初のひと口をひとりで食べるのが寂しくて、征一郎さんの電話が終わるのを待つ。十分ほどして戻ってきた彼は、すまなそうに眉を寄せていた。
「悪いな……待たせてしまって」
「いえ、わたしが勝手に待っていただけです。いただきましょう」
わたしは改めてナイフとフォークを手にした。しかし、向かいに座った征一郎さんは手に取らず、ため息を吐いて肩を落とした。
「ダメだな……俺は。これじゃあ……いつ上川くんにきみを取られても仕方ない」
「か、上川くんですか?」
「ああ、きみとのことをよく俺に聞いてくる。たしかに俺が、きみにたずねられることが我慢ならなくて『気になることはなんでも俺に聞いてくれ』と言ったけど……きっと、別れそうなタイミングを見計らっているんだ」
「そ、そうでしょうか……」
上川くんのことだから、別れるタイミングを見計らっているのではなく、言いつけを守っているのでもなく……征一郎さんの反応を見て楽しんでるんじゃないかな……。