週末シンデレラ番外編SS集
「いいえ、すごく嬉しいです。来年のクリスマスはこのワンピを着ますね」
「じゃあ、来年はそのワンピースに似合うネックレスを買おう。……いや、コートの方がいいかな……でも毎年洋服も味気ない気がするし……」
征一郎さんは難しい顔をしながら、早くも来年のことを考えだした。
その様子がかわいく見えて、つい口元がほころぶ。
「征一郎さん、次はわたしからもプレゼントさせてくださいね」
「ああ……ありがとう。プレゼントはするのも楽しいからな……お願いするよ」
「はいっ!」
ふたりで会話をしていると前菜が運ばれてきた。
スライスしたトマトとモッツァレラチーズのサラダ、フォアグラのテリーヌ、マグロとパプリカにアンチョビやオリーブなどが混ざったペースト状のソースがかかったもので、どれも鮮やかに盛り付けられている。
口に運ぶと、新鮮な素材と味つけが抜群に合っていて、とてもおいしかった。
キラキラとした夜景は見えるし、店内はオシャレで料理はおいしい。しかも今日はクリスマスイヴで店内は満席。
急遽決まった予定なのに……征一郎さん、どうやって予約したんだろう。
「征一郎さん、ここ……いつ予約したんですか?」
「今日の午前中かな。得意先の担当者とクリスマスの話になって……その人がこの店のオーナーと知り合いで融通してくれたんだ」
「そうだったんですか……」
「営業になると知り合いが増えるな。前はわずらわしくもあったけど……今は悪くない」
そう言うと征一郎さんは優しく微笑んだ。
「……征一郎さん、前よりイキイキしてますし、表情も柔らかくなりましたもんね」
仕事が充実している証拠なんだろうな。
だけど、征一郎さんはわたしの言葉に軽く首をひねった。
「そうかな?」
「そうですよ。前はすっごく怖くて、いつも眉間にしわが寄っていて……怒っているイメージがあったので密かに怯えてました」
「きみに怖がられていたんだとわかっていたけど、改めて聞くと俺は本当にヒドイ態度だったんだな」
征一郎さんは苦笑し、それからわたしの目をじっと見つめてきた。
眼鏡の奥からの熱い視線に、胸がトクンと高鳴る。
「でも……変わったなら、きみのおかげだよ。前にも同じようなことを言ったと思うけど」
「……言われた、ような……言われてないような……」
恥ずかしくて、口ごもりながらシャンパンを口にする。シュワシュワと爽やかに弾ける炭酸が、ちょっとだけ甘酸っぱく感じた。