週末シンデレラ番外編SS集
ううん……言わなくてよかったのかも。征一郎さん、時間のこと気にしてるし……。
わたしは小さくため息をついた。
そうだよね……明日仕事だし、征一郎さんは商談があるだろうし、ワガママ言ったら迷惑がかかっちゃう!
「……そろそろ、帰るか?」
征一郎さんの言葉にわたしは大きくうなずいた。
「はい、帰ります。また……時間がとれるときに、ゆっくりデートしましょう」
征一郎さんに迷惑をかけたくなくて、明るめの声で言った。
「ああ……そうだな」
征一郎さんも納得したようにうなずき、ふたりで駅まで歩いて一緒の改札を通る。
「じゃあ、また明日……」
ホームが別れるところで立ち止まって、手を軽くふる。
「明日……」なんて言ってみるけど、征一郎さんが営業部になってから会社で会えないこともある。そこはグッと呑み込んだ。
「ああ、また明日」
征一郎さんは眼鏡の奥の瞳を優しげに細めた。
わたしも頬を引きつらせながらなんとか笑ってその場から離れようと彼に背を向けた――瞬間。
「きゃっ……!」
征一郎さんに腕を引かれ、身体がまた彼の方を向く。
彼の顔はほんのりと、耳は熱湯でもかけられたかのように赤くなっていた。
「せ、征一郎さん?」
「すまない……やっぱり、もう少し一緒にいたい」
「征一郎さん……」
すまない……って、全然征一郎さんは悪くない。わたしもそうしたいって思ってたから……。
胸の奥から嬉しさがジワリと湧き上がってくる。それを噛みしめていると、彼はさらに真剣な顔つきになった。
「明日、一緒に出勤したいんだ」
一緒に出勤って……それって、お泊りっていうこと……だよね!?
クリスマスの朝も、一緒にいられるんだ……!
「はいっ……!」
わたしが笑顔で返事をすると、征一郎さんは「よかった」と胸を撫で下ろしていた。
もしかしたら、征一郎さんもわたしの負担にならないか、気遣っていてくれたのかな。
そのうえで、こうして誘ってくれたのはすごく嬉しい。