週末シンデレラ番外編SS集
番外編SS8:幸せな年明け
「さすがに冷えるな」
冷えた手に息を吹きかけていると、征一郎さんがギュッと握って温めてくれた。
除夜の鐘が鳴り響く寒空の下、家を出発してふたりで近くの神社へ歩き出した。小さな神社らしいけれど、細い路地には街灯に照らされて初詣へ向かうらしい人がちらほらと見える。
寒いからか、それともただ仲がいいだけか、歩いているカップルや家族連れはお互いの距離が近くて、その光景を見ているだけで心がじんわりと温かくなった。
「そういえばテレビで観たんですけど、初詣って神様への年始の挨拶だからお願いごとはしないほうがいいらしいですよ」
白い息を吐きだしながら隣の征一郎さんを見上げる。いくら上目遣いでもモコモコのダウンを羽織って、顎にかかるほどマフラーをぐるぐると巻いたダルマ状態だからきっと可愛さのかけらもない。
「お願いごとはしちゃいけないのか?」
征一郎さんがノンフレームの奥の瞳を丸くして見下ろしてきた。同じくボリュームのあるダウンにマフラーをぐるっと巻いているのに、かっこよく見えるから征一郎さんはやっぱりモデル体形なんだとこの年の瀬に再認識した。
「ええ、神様にたいして不躾らしいという説明がありましたよ」
「まいったな、ずっとお願いごとばかりしていた」
「私もですよ。なので、今年はちょっと気をつけようかなって」
「そうか、詩織がそうするなら俺も……っと、そろそろ年が明けるな」
除夜の鐘の余韻が響く中、征一郎さんが街灯をたよりに腕時計に視線を落とした。
「……0時だ。あけましておめでとう、詩織。今年も、よろしく」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
家の中でも目的地の神社でもなく、道の端っこで新年の挨拶をかわす。立ち止まって頭を下げ合っているとなんだか間抜けで、でもそのキマッていない感じがわたし達らしくもあって、頭をあげるとふたりで微笑みあった。
「それじゃ、行こうか」
「はいっ」
繋いでいただけだった手を、腕を絡めて繋ぎ直して征一郎さんのポケットにお邪魔した。より密着して、すぐそばにある体温に無意識に口元が緩んでいく。
年と年をこうしてふたりでまたぐ。一歩一歩とふたりで足音を重ねながら、目的地へ向かう。
嬉しくて幸せで、征一郎さんも同じ気持ちならいいのに、とこっそり横顔を見上げると耳を赤く染めていた。……グッジョブ、街灯。
心の中でガッツポーズしていると「へへ」と思わず声が漏れてしまった。
「ん? どうした?」
「い、いえ……なんでもありません。……あ、神社が見えてきましたよ」
慌ててごまかすと征一郎さんは「ああ」と瞳を細めてうなずいてくれた。