週末シンデレラ番外編SS集
「結構人が多かったですね」
「ああ、いつもはもっと閑散としている……というかいないのに、この時間にあれだけの人が集まるんだな」
お参りをしてお神酒をもらうと、家へ戻ろうと来た道を帰る。行くときに見かけていたカップルや家族連れはもう帰ってしまったのか、あたりは人の気配がない。
ひっそりとした中を歩いているとふたりだけの世界にいるみたいで、こんなに穏やかな年明けを迎えられたから、これからははじまる一年もこんな風にとても幸せなんじゃないかと予感した。
「あ、そういえば初詣……つい、お願いごとしちゃいました」
「えっ、今年は挨拶だけにするんじゃなかったのか?」
わたしの告白に征一郎さんが意外そうに口を開いた。
「そう思ってたんですけど……やっぱり、つい……。あ、もちろん挨拶もしましたよ」
「……そうか。……いや、実は俺もお願いごとをしてしまったんだ」
「えっ、なんだ、一緒じゃないですか」
ホッとして笑顔で見上げると、征一郎さんはなぜか顔を真っ赤にしていた。
「せ、征一郎さん? どうかしましたか?」
「な、なんでもない。……べ、べつに下心があるお願いごとをしてしまったから恥ずかしいとかじゃなくて、ちょっと反省しているだけで……」
「……反省? えっと、下心はどういう……?」
顔を覗き込むと、征一郎さんはアタフタとずれてもいないメガネを押し上げた。
「い、いや、今年も詩織と仲良くいられますように、というくらいだ」
「それならわたしも一緒ですよ?」
「……いや、おそらく詩織よりもっと……よ、邪だと思う」
「邪……」
街灯の下、わたしからフイと視線を逸らした征一郎さんは耳だけじゃなくて頬も真っ赤だった。
「本当は俺も挨拶だけにするつもりだった。……けど、年越しをこうしてふたりで過ごせて、ダウンでモコモコになった詩織が可愛くて……しかも、俺と手を繋いで笑っていると思ったら……幸せで。もっと……詩織を幸せにしたいと思ったんだ」
「征一郎さん……」
なんだ、それじゃやっぱりわたしと一緒だ。
思わずフッと笑みを漏らすと、征一郎さんは苦笑を浮かべた。
「引いてもいいけど、キライにはならないでほしい」
「引かないですし、キライにもなりません。ただ、お願いごと……神様に言わずに伝え合ったらよかったなぁって思っただけです」
「ああ、そうだな。遠回りをしなくても、こうしてすぐに言い合える場所にいるんだもんな」
笑いかけると征一郎さんも唇に優しい弧を描いた。
ああ、でもやっぱり神様にお願いごとしたからかな。征一郎さんがすぐそばにいるという幸せなことに気づかせてもらえた。……お願いごとがさっそく叶っているらしい。
「今度からはちゃんと伝え合いましょうね」
「ああ」
笑っていると、征一郎さんは大きな手の平で頭をそっとなでてくれた。
「……じゃあ、俺のお願いごとは詩織が直接叶えてくれるっていうことでいいのか?」
「そうですね、なんでもドンと言ってください」
ダウンで包まれた胸をモフッと叩くと、征一郎さんにその手を取られる。
「そうか……いいんだな?」
「っ、え、えっと……」
艶っぽい瞳で見つめられ、ドキドキと胸が鼓動を刻みだした。
「覚悟しておいてくれ。俺は結構ワガママだから」
「征一郎さんのワガママなら構いませんよ?」
見つめ返してうなずくと、グッと強く引き寄せられる。あっという間に彼の暖かな胸の中に全身で飛び込んでいた。
「せ、征一郎さん? 外ですよ、ここ!」
真面目な征一郎さんには珍しい。あれ、そういえばお願いごとを聞いたとき下心がどうとか邪がなんとか……って言っていたような……?
ふと思い出していると冷たい耳に温かな吐息がかかった。
「今すぐこうしたかった」
甘い声のトーンに胸の鼓動が加速をはじめる。
「けど、本当はもっと……詩織が欲しい」
「っ、そ、それは……」
「早く帰って、詩織を愛させてくれ」
耳にチュッと唇を寄せると、私の手を取って歩き出す。行きより少し早くて、だけどその歩幅がちょうどいい。
目的地が変わっても、年が明けても。同じ場所を目指してふたりで歩く。それが幸せだって教えてくれるのは神様でも他の人でもなくて、征一郎さんしかいない――。
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あけましておめでとうございます!
ちょこっと新年の小話を追加してみました。
いつまで詩織を敬語にしておくべきか…(悩)
少しでもお楽しみいただけますと幸いです。
それでは本年もよろしくお願いします。
2018.1.4 春奈真実
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