哀涙螺旋【1】
*
ポケットが震える。その振動のせいで、体中のズキズキ痛むところが尚一層熱を帯びてくる。
腕を持ち上げるのも億劫だけれど、この振動を無視すれば後が面倒くさい。
無理矢理ポケットに手を突っ込み、振動の止まないケータイに触れた。
ズキズキ痛む腕。ケータイをポケットから取りだし、投げ出された足の付け根の上(つまりは太股の上)にケータイを置きボタンを押す。
「ハロー、ボス」
『遅い』
開口一番に努めて明るく声を発したというのに、電話の相手の声色はかなり苛立った様子だ。
短気な奴め。
『仕事が終わったならさっさと帰ってこい。仕事増やすぞ』
「うっわお、それが健気に活動する部下に対しての言葉ですか。冷たい上司ですね」
『お前のどこが健気だ。むしろ腹黒だろ。つーか早く帰ってこいっつってんだろ』
「怪我してるんで無理です」
『お前なら這ってでも帰ってこれる』
「あ、いちおう信頼してくれてるんですね」
『やっぱ帰ってくんな』
言うだけいうと電話を切られた。うん、相変わらずツンツンした態度だ。
いつかデレてくれることを期待しよう。
はあ、うつ向いた態勢で溜め息をつく。首が痛い。
ぱちゃ、ぱちゃ
微かに聞こえる水音。それは降りやまない雨の音なんかじゃなく。
ぱちゃ、ぱちゃ、にゃあう
誰か…いや、「にゃあう」と云うことはきっと猫だ。
猫が、こっちに近づいてきている。
ポケットが震える。その振動のせいで、体中のズキズキ痛むところが尚一層熱を帯びてくる。
腕を持ち上げるのも億劫だけれど、この振動を無視すれば後が面倒くさい。
無理矢理ポケットに手を突っ込み、振動の止まないケータイに触れた。
ズキズキ痛む腕。ケータイをポケットから取りだし、投げ出された足の付け根の上(つまりは太股の上)にケータイを置きボタンを押す。
「ハロー、ボス」
『遅い』
開口一番に努めて明るく声を発したというのに、電話の相手の声色はかなり苛立った様子だ。
短気な奴め。
『仕事が終わったならさっさと帰ってこい。仕事増やすぞ』
「うっわお、それが健気に活動する部下に対しての言葉ですか。冷たい上司ですね」
『お前のどこが健気だ。むしろ腹黒だろ。つーか早く帰ってこいっつってんだろ』
「怪我してるんで無理です」
『お前なら這ってでも帰ってこれる』
「あ、いちおう信頼してくれてるんですね」
『やっぱ帰ってくんな』
言うだけいうと電話を切られた。うん、相変わらずツンツンした態度だ。
いつかデレてくれることを期待しよう。
はあ、うつ向いた態勢で溜め息をつく。首が痛い。
ぱちゃ、ぱちゃ
微かに聞こえる水音。それは降りやまない雨の音なんかじゃなく。
ぱちゃ、ぱちゃ、にゃあう
誰か…いや、「にゃあう」と云うことはきっと猫だ。
猫が、こっちに近づいてきている。