哀涙螺旋【1】

民家の石塀に寄りかかった状態で、首だけを動かす。体全部動かすのはさすがにキツいし。

…顔を動かすのもやっぱキツいな。
目だけを音のする方に向けた。


ぱちゃ、ぱちゃ、ぱちゃ


だんだん、近づいてくる。それでもぼやける視界ではその姿を捕らえきれない。

くそう、これだから暴力沙汰は嫌いなんだ。誰だ、男は拳で語り合うなんて言った奴。

痛いのなんて嫌に決まってんだろ。


ぱちゃ、ぱちゃ


大体ボスも人使いが荒い。もう少し部下を労(いたわ)ってくれればいいのに。


ぱちゃ、ぱちゃ、ぱちゃ…


ああもう、この仕事やめてやろっかな。時給はいいんだけどね。うーんでも、


ぱちゃ、…にゃあう


つまんないコトなんて、意味がない。


にゃおう、にゃあ


「え、」


思わず掠れた声が出た。

いつの間にか、ちょこんと隣に猫が座っていて。

ジッとこちらを見つめてくるのだけれど、その猫に見覚えはない。

けど、これだけは言える。


「お前はなんて綺麗なんだろうね」

「ふにゃあお」


揺れる尻尾。雨に濡れた灰色の毛並み。鳴いた時に見える赤い舌が、猫のくせにちょっと色っぽい。


………。


やばい、末期だ。
猫相手に色っぽいとか、馬鹿でしょ。

つか、キモス。

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