哀涙螺旋【1】
エメラルドグリーンの瞳。逸らすことなく向けられる綺麗な目に、どうしようもなく触れたくなった。
この目が欲しくなった。
「(……鬱だな)」
この目をくり貫いて、大事に大事に宝箱にしまってみたい。いや、いっそのこと目を交換してしまおうか。
「おいで」
口だけを動かし、ただジッと佇(たたずむ)む猫を促す。
もっとこっちにおいで。
私に触れさせて。
「お前が欲しいな。せめて、死ぬ前にお前とキスがしたい。抱きしめさせてよ」
「……。(ツーン)」
「あれ、無視?」
ふいっとエメラルドグリーンが閉じられる。顔を逸らされるなんて、そこまで嫌われたのか。
それも上等。
この猫を手に入れるまで、私は死にきれない。
だけど、せめて。
触れさせて。
無理矢理体を動かし、そっぽを向く猫の方へと倒れこむ。
ぱしゃっと水が跳ねた。それが顔にかかろうが、どうでもいい。
細かく言うと口に入ったけど、それもどうでもいい。
「お前の瞳は綺麗だね。その毛並みもそのツンツンした態度も、ぜんぶドストライク」
「……。(ツーン)」
「う、ん……どこにもいかないでね。ちょっと、私は、寝るだ…け、だから………」
意識が朦朧とする。
目が覚めたらいなくなってた、なんて。それは嫌だな。
打ちつけられる雨音が煩い。
じっとりと染み込んでくる汚れた水が、白いシャツを灰色に侵す。