哀涙螺旋【1】



目が覚めた。

ふかふかとは言えないが、安心する心地よさのある布団。に、自分は寝ていたのだ。

頭を押さえ、無理矢理体を持ち上げ肘で上半身を支える。


辺りを見回せば、畳に障子と和風な部屋にいるということが分かった。

更に言えば、ここは自分の家か。


あれ、なんでここに。
さっきまで確か、………。



「あら、目が覚めたのね。あんた四日間も寝てたんだから。路上でぶっ倒れてたあんたを運んであげた私に今度バーで奢りなさいよ」


「フレマさん………。相変わらず厚化粧ですね」


「るっさい。それが開口一番の恩人に対しての台詞か」



怒りを静かに表すフレマさんの手には水の入った桶と濡れ布巾。

ああ、この人が私を看病してくれてたのか。ありがたや。


「路上で寝るなんてあんたも大概変わり者よね」


呆れるばかりだと息を吐くフレマさんは、私の隣に正座して濡れ布巾をギュッと絞った。


別に、好きで寝てたわけじゃないんだけど。あんな場所とシチュで、どう好んで寝る奴がいるのだ。


そう悪態をつくのも心の中だけで、口には出さず黙ってフレマさんから濡れ布巾を被せられた。


ひんやりとした感触が一瞬だけ気持ちよかったけど、すぐにズキズキと痛む後頭部のせいで顔が歪む。


唸るように首を少しだけ動かせば、額に乗せられていた濡れ布巾がマクラの横に落ちた。


それに気づいたフレマさんがもう一度のせ直してくれたけど、また落ちると思ったのかそっと押さえつけてくれた。


「風邪、39度7分もあるわ。しばらく仕事は出来そうにないわね」

「……すみません」

「謝ることないわ。一応今回の仕事は成功したんでしょう?だったら、」

「いえ、そうではなくて」

「?」



「パッドで誤魔化した貧乳があまりにも可哀想で、つい。ない胸を見てしまってすみませ」



ゴンッ


病人にすら容赦ない鉄槌を下すフレマさんに、今度からもう少しオブラートに包んで伝えてあげようと思った。

貧乳の方が私は好きですよ、と今度言ってみよう。


後頭部だけでなく前頭部も崩壊した気がする。

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