等心大〜tou・sin・dai〜
「まさかこんなに早く
 孫の顔を見れるとはなぁ」


母からの連絡で早く帰宅した父は
このうえなく上機嫌だった。
友貴とビールを飲みながら
ガハガハ笑うし
私の知らない人みたいだ。



「娘しかいないから
 孫は男がいいなぁ」

「僕は元気であればどっちでも」

「うん、そうだな。
 もう友貴君という息子がいるしな」



母はその光景をニコニコ見ている

「お父さん、あんまり飲ませすぎないでくださいよ」

「なぁに、泊まっていけばいい。
 なぁ、友貴君」

「あっいえ、ご迷惑ですから」

「何が迷惑なもんか。
 もううちの息子なんだから
 遠慮なんかしないでいい」

「じゃあ…お言葉に甘えて」



母と私は小さくため息をついた。


「彩はもうお風呂に入って
 休みなさいね」

「うん…」


友貴を見ると
大丈夫、というように
目配せをした。

声に出さず口だけで
「ごめんね」と言うと
ニコッと笑ってくれた。




脱衣所で服を脱ぐと
鏡に映った自分の体を見つめた。





あんな上機嫌な父は初めて見た。
母も、とても嬉しそうで。
絵に描いたような
幸せな風景だった。



もう一人。

お腹にいるこの子が加わったら
この子を中心に
毎日あんな風景が描かれる。

それはとても幸せなことのように思えるけど
多分、違う。


私も友貴も
心の奥底でひっかかるものを
完全に消し去ることはできない。
今日も。明日も。何年たっても。



もちろん
友貴の子が産まれてくる可能性だってある。
それを心から、願ってる。


でも
友貴の子じゃなかったとしたら
私も友貴も
胸のつかえを抱えながら
生きていくことになるだろう。

それで友貴は幸せになれる?
私も幸せになれる?
臆面もなく、心から「幸せ」って
想える日はくる?




答えは出るはずもなく
私はメイクも落とさず
シャワーを頭から浴びた。
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