等心大〜tou・sin・dai〜
「どーした?」

ボーッとしている私に
背後から友貴が声をかける。
いつのまにか風呂からあがっていた。



「あ…なんでもないよ」

「気分でも悪いのか?」

「ううん、大丈夫」


友貴と一緒に小さなダイニングテーブルにつくと
友貴は近くに置いてあったバッグからパンフレットを数冊出した。


「どうしたの…?」


結婚式場の、パンフレット。
友貴はテレくさそうな顔をした。


「彩も着たいだろ、ドレス」

「そりゃ…着てみたいけど」

「産まれる前に
 式挙げた方がいいだろ?」

「…ありがとう」



胸が詰まる。

結婚式のことなんて
正直、忘れてた。
考えることが多過ぎたのは
友貴も同じはずなのに。


「あ、このドレス
 彩に似合いそうだな」

友貴の指さすドレスは
ヴェールの長い、神聖なドレスだった。

見ていると
夢は何でも、叶う気がするような
そんなドレス。

純白のドレスに身を包み
友貴の色に染まるんだ。
永遠の愛を、誓うんだ。




「女の子が産まれたら
 ヴェール持ってもらうのも
 かわいいよね」

うっとりとして
つい口走ったその言葉を
すぐに私は後悔した。


「娘かぁ。
 彩に似たらかわいいだろうな」





一瞬、空気が固くなった。


私に似なかったら?
友貴にも、似てなかったら?




「まぁ…産まれる前に
 挙げた方がいいよな」

「…うん」




動けなかった。

友貴もきっと
私と同じことを考えた。



――これでいいの?


喉がカラカラに渇いて
声にならない。



「今日泊まってく?」

何もなかったかのように
友貴が聞く。



「今日は…帰る…」


かすれた声で
やっとそれだけ言うと
私は友貴の部屋を出た。
< 115 / 150 >

この作品をシェア

pagetop