等心大〜tou・sin・dai〜
翌日、休みをもらって
朝一番に私は病院に向かった。


待合室に座ると
もうすでに妊婦さんが数人きていた。

2〜3歳の子を連れている妊婦さんが、絵本を読み聞かせている。
あたりまえなことだけど
その妊婦さんの左手の薬指には
シンプルなリングがある。


結婚し、
夫と同じ姓を名乗り、
夫との子を産み、育てる。

そんな平凡な幸せが
私にはとても遠いことのように思える。



どうしてみんな
そんなに簡単に幸せになれるの?

うまく生きられるの?

いつから私の人生は
こうなってしまったんだろう。





「西村さん、どうぞ」

「あ、はい」


看護師さんの後をついて
診察室に入ると
この前の女医さんがいて
少しホッとした。



「よろしくお願いします」

「じゃあまたエコーで
 赤ちゃん見てみましょうね」



内診台に上がり
器具を入れられる。

モニターを覗きこむと
この前よりもずっと
しっかりした形の、赤ちゃんが見えた。



「こちらが頭ですよ」


前回はわからなかったけど
今日はきちんと頭と胴体がわかる。



――私の赤ちゃんだ



胸がじんわりと温かくなって
こみあげてきて
泣きたくなった。




生きてるんだ。




「問題ないですよ。
 元気ですね」

「あ…ありがとうございます」



たった二週間で
こんなに大きく成長していた。

私が悩んだり
迷ったりしている間も
この子はどんどん大きくなる。


迷ってるヒマなんて、ない。



私はひとつの決意を抱いて
友貴の部屋へ、向かった。
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