等心大〜tou・sin・dai〜
「もう、やめよう」



しっかりと、私がそう言うと
友貴は驚いて言葉を失った。




沈黙が続き
私の心はどんどん静かになっていった。

覚悟が決まる、というのは
こういうことなのか。
自分でも初めての経験だ。

これから大変なことが待ち受けているのに心は穏やかで静かだ。
何があっても、きっと動じない。
大丈夫。




どれくらい時間が経っただろう。

先に沈黙を破ったのは
友貴だった。



「やめるって…何をだよ?」


友貴の声はかすれていた。
喉の奥から
やっと絞り出したような
そんな声だった。


私はひどいことをしてる。
胸の奥が少しだけ
チクンと痛んだ。



「全部だよ。
 結婚も、私達の付き合いも。」

「…子供はどうするんだよ。
 一人でやっていけるのか?」



当然そう聞かれることは
わかっていた。
用意してある答えを言うだけだ。
言葉にするだけだ。

小さく、ゆっくり深呼吸してから
私はハッキリと、言った。



「産まないことにした」



友貴はまた驚いて
目を見開いた。


「堕ろすことにしたの」


小さく震える手を
友貴に知られないように
私はスカートをギュッと握る。


「…病院で何かあったのか?」

「そうじゃないの」

「産みたくないのか?」



私はまた
小さく深呼吸をする。

答えは考えてきた。
それを言葉にするだけ。





「産みたくない」





その時の
友貴の傷ついたような顔を
私は一生、忘れないだろう。
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