等心大〜tou・sin・dai〜
右手の親指で
友貴の番号を押す。


見慣れているはずの
友貴の電話番号。
今ではひどく遠いものに感じる。


友貴が、
1番近くにいた友貴が
今は1番、遠い。



友貴からの着信は
もう二度と
ないんだ。

新しい携帯に変えたんだから
それは当たり前のことなのに
胸が締めつけられる。
泣きたくなる。



友貴の番号を
見つめていると
どんどん切なくなり
私は携帯を閉じた。



友貴。
友貴。
友貴。



抱きしめられたのは
まだ最近のことなのに。

笑いあえた日は
遠い過去になってしまった。




友貴との恋を
物足りない、と感じた日もあった。


友貴の優しさを
当たり前だと思ってた
愚かな私がいた。





私から
友貴の手を
離してしまった。

もう二度と
友貴の手を握ることは、ない。




失ってみて
初めて気づいた。





私、友貴を
愛してるんだ。




愛してるなんて
そんなありふれた言葉じゃ
足りないくらい。



私は
友貴を愛してる。



今になって
そんなこと言っても
もう遅いね。

私は本当に
本当にバカだ。





「彩ぁ、
 お風呂入っちゃいなさい」


廊下から聞こえる母の声に
なぜだか懐かしさを感じながら
私はゆっくり立ち上がった。
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