等心大〜tou・sin・dai〜
「あぁ楽しみだなぁ。
 産まれたら毎日行くかも!」

「あはは。
 そう言って春奈来なそう」

「行くよ〜
 私もうずっと日本にいるし」




――完全帰国。

メールにあった言葉を思い出す。

私にとっては
春奈が日本にいた方が
たまにこうして会えたりするし
心強いけど。



「もうドイツ行かないんだ?」

「うん。
 ちょっと母親、具合悪くてさ」

「お母さんが…そうだったんだ」


大学の時に一度だけ
春奈の家に泊まりに行ったことを
思い出した。

キレイで温かいお母さんで
私に
春奈のことをよろしく、と
何度も言っていた。



「私、一人娘だからさ、
 帰ってきてって頼まれて」

「そっか…」

「仕方ないよね。
 そんな言い方したくないけど」





――仕方ないよね。

春奈はその言葉、
本当に本当に
言いたくなかったに違いない。


大学の頃、
“仕方ない”とか
“しょうがない”って言葉は
汚い大人のセリフだと思ってた。

春奈はつねに
チャレンジし続けるって
ポリシーで
きっとそれは
今も変わらないだろう。

春奈の表情から
悔しさと哀しさの入り交じった
やるせなさを感じた。





仕方ないことって
大人になると
たくさん、あるよね。



自分の力だけじゃ
どうにもならないことなんて
大人になったら無いと思ってた。

だけど実際は
大人になったって
自分一人でできることなんて
ちっぽけなもので
たいがいのことは
周りの事情に飲み込まれてしまう。



親もいつまでも
元気でいるわけじゃないし
親の老いは年々
背中に重く、のしかかってくる。
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