等心大〜tou・sin・dai〜
その日の夕方。
友奈は産まれた。
産声のない、
とても静かな、誕生だった。
「産まれた赤ちゃんに
会いますか?」
先生のその声に
私も友貴も
「会います!」
と即答した。
看護師さんに体を拭いて、
連れてこられた赤ちゃんは
とても小さくて
そしてとても
友貴に似てた――…。
「312gですよ」
看護師さんは
私の胸元に赤ちゃんを
そっと置いてくれた。
抱きしめると
まだほんのりと温かくて
涙が出た。
「女の子だ…」
「うん…かわいい…」
ごめんね。
元気に産んであげられなくて。
ついさっきまで
あなたは生きてたのに。
ごめんね。
また涙が溢れてくる。
目を開けてよ。
寝顔だけじゃなくて
目を開けた顔も見せてよ。
「友貴にそっくりだよ…」
「そうだな…鼻とかそっくりだな」
「ちっちゃいね」
「女の子だから小柄でもいいさ」
まるで
友奈が生きてるみたいな、会話。
そこには
希望が込められていた。
もう叶うことのない、希望。
友貴が
ささやくように
言葉を繋ぐ。
「ありがとう、彩」
空耳かと、思った。
私はお礼を言われるようなこと
してないから。
むしろ
責められても仕方ないから。
友貴は私の腕から
そっと友奈を抱き上げて
もう一度、言った。
「俺の子、産んでくれて
ありがとう。」