等心大〜tou・sin・dai〜
バスルームの鏡に映った
自分を見てみる。


肌も髪も
ケッコーお金と手間、
かけてるつもり。
でもやっぱり10代とは、違う。



あの頃はまだまだ
何でもできるような気がしてた。


今も、
まだ何かできるような気がする。

でも
できないような気もする。




シャワーの湯を止め
体を拭く。

そこで
今日は遅番だったことに気付く。



――何やってんだ、私。

まだ寝ててよかったんじゃん。



ただでさえ
さっきから暗い気分だったのに
さらにオチる。



脱衣所で
マッサージをしていると
母が廊下から声をかけてきた。


「彩、もう行くの?」

「ううん、今日は遅番」

「じゃあコーヒー入れるから
 飲んでいきなさいよ。
 お父さんもう行ったから」




“お父さんもう行ったから”



笑える。

結局のところ、
母も父がいない方がいいのだ。



メイクはしないまま
Tシャツとスエットパンツを着て
リビングへ行く。


母がキッチンから
入れたてのコーヒーを
持ってきてくれた。



「はい、どうぞ」

「ありがとう」



私は母のコーヒーが好きだ。
どんなことがあっても
いつもと同じ味の
いつもと変わらない香りの
このコーヒーを飲むとホッとする。



湯気がいいのかもしれない。
コーヒーでも、
料理でも、
湯気って温かいキモチになる。
まぁ、真夏はならないけど。




コーヒーを飲む私を見て
母は微笑みながら

「彩がコーヒー
 飲めるようになったのって
 いつだったか覚えてる?」


なんでそんなこと
聞くんだろう。


「えー…わかんない」

「中学生よ。
 ブラックが
 飲めるようになったのは
 大学生のとき」

「よく覚えてるね」

「もちろん。
 好きな人でもできたのかなって
 思ったんだもの。」
< 27 / 150 >

この作品をシェア

pagetop