等心大〜tou・sin・dai〜
――するどい。

図星だ。
中学生のとき
学校の先生に憧れてた。


先生はいつも
缶コーヒーを飲んでいて
その時すごく
それが大人に見えた。

おいつきたくて
私も背伸びして
コーヒーを飲む練習をしたのだ。

もちろんまだ
砂糖とミルクたっぷりの
香りもわからない甘いコーヒー。




それが
ブラックに変わったのは
大学生のとき。

当時の彼氏が
ブラックを飲んでたから
なんとなく飲めるようになった。





「母親はね、
 娘の変化の影に
 男がいることなんて
 すぐ見抜けるのよ」





――ようするに
   ヒマなんでしょ。



「ねぇ
 お母さんってこれでいいの?」

「これで、って?」

「だって楽しいことなんてある?
 お父さんでよかったの?」




一瞬、間があって
母が
本当におかしい、という風に
大笑いした。



「もう何を言ったって
 どうにもならないじゃないの」


まぁ、その通りだ。


「あきらめてるの?」



母がちょっと考えて
マジメな口調で
でも微笑みながら言った。

「幸せなときもあったわ。
 それでいいのよ」


「…ふぅん」

「まぁ彩には夫婦のことなんて
 まだわからないわね」




本当に
わからない。


あの父も
結婚前は優しかったのだろうか。
母に「愛してる」とか
言ったりしたのだろうか。
想像できない。


母は
その想い出に
すがって生きてる――?


理解できない。



小さい頃から
両親は今と同じで
って、見た目は変わったけど。

お母さんとお父さんはずーっと
お母さんとお父さんのままだって
思ってた。



でも両親にも
私と同じ年齢の頃があったのだ。



「お母さんって
 いくつで結婚したんだっけ」

「24。
 今の彩より若かったのね」

「結婚する前
 たくさん遊んだ?」

「やぁね、遊ばないわよ。
 昔は厳しかったもの」

「そっか」
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