等心大〜tou・sin・dai〜
父親というのは
どうしてこう
娘の心を逆なでするのだろう。

やることなすこと
いちいちイラだつ。



メイクを落とし
シャワーを浴びる。



母が脱衣所に入ってきて
ドアごしに声をかけてきた。

「タオルと着替え置いとくわよ」

「はーい」



こういう気分がオチてるとき
母の声聞くと少し明るくなる。




手早く全身を洗うと
すぐにバスルームを出て
リビングに顔を出した。



「あら、もっとゆっくり
 入ってればよかったのに」

父はもう
寝室へ行ったようだ。

ダイニングテーブルには
食べ終わったままの
食器が出ている。



「彩も食事にする?」

「うん、かるく食べる」



ダイニングの席につくと
父の食事の残骸が
イヤでも目に入る。


――友貴だったら。

友貴だったら、
食器はキッチンに下げてくれる。
毎日じゃないとしても
食器洗いだってやるだろう。

じゃあ、大川さんは?




「彩の好きなカルボナーラ」

母が私の前に
スパゲティを置いた。


「軽くって言ったのに」

「あら、それだけよ。
 じゅーぶん軽いわよ」



母はいつも出す量が多いのだ。
料理くらいしか
楽しみがないのだろう。


「いただきまーす」


夜中にこんな
コッテリしたもの食べたら
太っちゃうじゃん。

母はニコニコと
私が食べるところを見てる。



「おいしい?」

「うん。でも多い。夜だし」



少しふてくされながら
スパゲティをすする。
母が私の前のイスに座った。


「彩の彼ってどういう人?」

まさか母から
そんなこと聞かれるとは
思ってもみなかった私は
驚いてむせてしまった。


「あらあら、大丈夫?」


母がコップに
水を注いで私に渡す。


「う…うん」



私の息が治まると
母はまた聞いてきた。


「彩が好きになる人って
 どんな人なのか
 ずっと気になってたの」
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