等心大〜tou・sin・dai〜
「ふ…フツーだよ」

「普通って?」

「フツーに働いてフツーの外見で
 フツーに優しい人」


母は
やれやれ、というような顔をして
こう言った。



「優しいっていうのはね、
 普通ってことではないのよ」


私が黙ると
母は続けてこう言った。



「優しい人っていうのは
 2種類あると私は思うわ」


私は首を傾げた。


「2種類?」

「そう。
 ひとりは、誰にでも優しい人。
 もうひとりは特別な優しさ」



“誰にでも優しい人”

なぜか大川さんの笑顔が浮かぶ。
そんなに大川さんを
よく知ってるわけじゃないけど。




「誰にでも優しい人なら
 やめた方がいいわね。
 多分その人は自分以外の人を
 大事にできる人じゃないわ」



――そんなことないと思うけど。



「特別な人には優しいって人なら
 信じてみてもいいわね」



それはきっと
友貴のことだ。

友貴はぶっきらぼうで
自分に正直で
偽るくらいなら嫌われてもいい、
って性格だから。



「お父さんはどっちだったの?」

母は迷わず言った。

「お父さんは
 誰にでも優しかったわ」

「じゃあダメじゃん」


本当にそうね、というように
母は笑って


「だから今でも家族以外の人には
 誰にでも優しいのよ」

と言った。



「お母さんってかわいそう」

言うつもりじゃなかったのに
口から出てしまった。


「家族には甘えが許されると
 思ってるのよ。
 本当はすごく弱い人なの」




――母はせつない。

じゃあ母はいったい
誰に甘えるのだろう。



「私はイヤだな」

「そうね。
 じゃあお父さんと正反対の人を
 選ぶしかないわね」



ますますわからなくなった。

どうすればいいのか。
何をしたらいいのか。



「ごちそうさま」

なんだかひどく疲れて
私は部屋に戻った。
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