等心大〜tou・sin・dai〜
「はい、どうぞ」

ソファーの前のテーブルに
大川さんはコーヒーを置いた。


「ありがとう」

私はソファーに座り
コーヒーをひとくち飲んだ。



隣に大川さんが座って

「彩はかわいいね」

と言ったので
笑ってしまった。

昨日は“彩さん”だったのに
今朝は呼びすてだ。



「なにか変なこと言った?」

大川さんは
何がおかしいのかわからない、
という表情で
私の顔をのぞきこむ。


「ううん、なんでもないの」

そう言うと
大川さんは私にキスをした。



「また来てくれる?」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「自信がないからさ」

「昨日は確信があるって
 言ったのに?」



もう一度キスして
ふたりとも笑った。



なんだか
帰りたくなくなってしまう。
ずっとこんな生活も
いいかもしれない、なんて。




「もう10分たつな
 下まで送るよ」

「ひとりで行けるから大丈夫」

「送りたいの」


ちょっと大川さんが
ふてくされた表情をした。



―かわいい。

素直にそう思った。




部屋を出て
エレベーターに乗ると

大川さんは

「僕とはこれっきり?
 それとも彼と別れる?」
と聞いてきた。

正直、友貴のことなんて
今朝はすっかり忘れていた。
浮気したのに
罪悪感がないことにおどろく。


私ってサイテーだな。
まだ何も決めてない。


「大川さんは本気なの?」

質問に、質問をかぶせてみた。

「本気だよ。
 彩の、本気の定義と同じかは
 わからないけどね」



―うまく逃げたな。

大川さんの心って
ほんとに読めない。

大川さんに的をしぼったら
捨てられるんじゃないか、って
ちょっと思う。



そんなミジメな想い
絶対したくない。



「大川さんが本気で私とのこと
 考えてくれるなら
 私も覚悟決めるわ」

「私とのこと、って?」

「だから、将来も含めて」
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