等心大〜tou・sin・dai〜
「まぁ結婚して子供産んで、
 地に足つけた人生も
 いいかなーなんて思うことも
 あるけどねぇ」


春奈が刺身を食べながら
つぶやくように言った。



「春奈でも
 そう思うことあるんだ」

私が目を丸くすると
春奈は怒ったように言った。


「がんばることに
 疲れちゃったときとかはね」




春奈も
疲れちゃうとき、あるんだ。

なんかシンセンだった。
シンセンなカンドー。




「今迷ってるんだよね」

春奈にだけは
打ち明けたくなった。


「迷ってるって…結婚?」

「まぁそうだけど、
 でもそうじゃなくて。
 どっちにするか」

「2人もいんのっ?!
 結婚候補者が??」


春奈がすっとんきょーな
声をあげた。



「それか、結婚しないか」


春奈はちょっと考えて
そして、落ち着きを取り戻した。




「三択ってことね」

「そうね。今んとこね」

「まぁ彩らしいっつーか…」


春奈が笑った。

そう、春奈なら
笑い飛ばしてくれると思ってた。



「1人は2年も付き合った男。
 もう1人は最近出会った男」

「新しい男って新鮮だもんねぇ」

「しかも金持ち」

「そりゃポイント高いわ」



そう。
私もそう思った。


でも気にかかる。

“悪いようにはしない”
って言葉。




「まぁでもアセッて決めるのって
 たいがい失敗するのよね」

春奈がまるで
自分が経験したことかのように
つぶやいた。



「あせりは禁物かぁ」

「そーゆーこと。
 ゆっくり結論だせば?」

「ゆっくりねぇ…」



確かに
アセッてよかったことなど
ないのだ。

だけどどーしても
アセッてしまう。
将来の確証がほしい。





「その金持ちって
 何してる人?」

「貸しビルみたい」

「ヤクザな商売ねぇ」

「ヤクザなのかなぁ」

「本人は違ってもその筋の人とは
 親しいんじゃない?」
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