等心大〜tou・sin・dai〜
春奈の実家も地主なのだ。
音大生は意外と
地主の子が多い。



「どこにビル持ってんの?」

春奈がめずらしく
キョーミシンシンな感じだ。


「どこかはわかんないけど
 大川さんっていうの」

「大川?」

「そう。大川誠、32才」



急に春奈が
真剣な顔になった。


「どうかしたの?」


春奈はハッとした顔をして
「あっううん、なんでもない」

と言った。



春奈が真剣な顔をするのって
あまりないから
ちょっと気持ちがザワついた。



「ね、彩。
 長く付き合った彼がたぶん
 彩のこと1番
 わかってくれてるんじゃん?」

「なに?急に」

「今よく考えたら
 そー思っただけよ」

「ふぅん」



やっぱり変だ。

春奈はあまり忠告したり
アドバイスをしない。
押し付けないから、
なんでも話しやすいのだ。


「そもそも彩、
 結婚とかいう前に
 家事できるのー?」

「…できない」

「まずそこからだぁね」

「ひどーい」






それから、
音楽やドイツの話をたくさんして
私たちは別れた。




――あの時の春奈の表情。
なんだったんだろう。



胸にしこりが残った。
< 52 / 150 >

この作品をシェア

pagetop