等心大〜tou・sin・dai〜
部屋に入るとCDをかけ
クローゼットを開いた。



心配?
あの父が?

小さな頃から仕事が忙しくて
遊んでもらった記憶なんて
ひとつもない。
たまに顔を合わせれば
文句ばっかり言ってきて

ウザイとは思うけど
好きとか大切とか思ったことは
一度もない。

むしろそういう感情とは
かけはなれた存在だ。


だから心配とか言われても
何をいまさら、って感じだし
父親ヅラしないでほしい。



イライラしながら
クローゼットの中から
服を選ぶ。


―今日はスカートじゃなくて
ジーンズにしようかな。




ふと
友貴と会うときは
いつもジーンズなことに気づく。

気合いが入ってない、という
ことだろうか。




結局、この前
大川さんの部屋に泊まった翌日
友貴とは会わなかった。


なんとなく
うしろめたいというか
どんな顔して会ったらいいか
わからなかったから。

それにあの日
なんだかひどく疲れていた。




着替えると
鏡の前に座り、
丁寧にファンデーションを塗る。


たっぷり睡眠もとって
手入れをした肌は
艶やかで輝きを放っている。


―私って悪くない。

そう思う。



丁寧に丁寧に、メイクをして
髪もブローする。


でかけられる格好になったら
見計らったように
ケータイが鳴った。



「はい」

『もう用意はできた?』

「今ちょうどできたとこ」

『グッドタイミングだな。
 迎えに行くよ。住所は?』



一瞬ためらったけど
住所を告げた。


『近いな。
 10分後に玄関出て待ってて』


そう言って
大川さんは一方的に
電話を切った。



出会った頃は紳士的だったのに
一度寝てからというもの
大川さんは少し強引だ。


男はみんなこうやって
変わってくものなのだろうか。



そう考えると
友貴はキチョーな男なのかも。

いまだに私に合わせてくれるし
紳士的で、優しい。
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