等心大〜tou・sin・dai〜
「私、今日はもう帰る」


どうにもならないくらい
ムカムカする。

ハッキリしない大川さんに。
ハッキリしない自分の気持ちに。



「送るよ」

大川さんは私の肩に
手をのせた。



女がこういうときには
何を言ってもムダなことを
この人は知っているのだ。

そこにまたイラだつ。


「いい。タクシー拾うから」

大川さんは
小さくため息をついた。
そして
やれやれ、というように

「彩のことは
 ちゃんと考えてるよ」

と言った。




「ちゃんと、って?」

「先のこともちゃんとさ」

「どうして先にのばすの?」



私は別に
責めたいわけじゃない。

なんだか今日の私は変だ。

春奈の
あの変な様子が
影響したのかもしれない。




「まだ時期じゃない」

大川さんは
フゥッと息をはいて
それだけ言った。





「…ごめん。」

私はなんだか哀しくなって
バッグを持って部屋を出た。




駅近いし
電車で帰ろう。


駅までの道を歩きながら
なぜだか涙がこぼれた。



やっぱり私は変だ。

いつもの私なら
こんなことで泣かないのに。
哀しくなったりしないのに。






私はやっぱり、アセッている。

ちっとも見えてこない未来に
イラだちを感じてる。


それは誰のせいでもない、
自分自身の問題なのに―。




冷静になれば
怒るようなことじゃなかった。

私たちはまだ
出会ったばかりだし
お互い知らないことが
きっとたくさんある。

大川さんの方が
真っ当なことを言ってるのだ。




駅に着くと
ケータイが鳴った。



――メール。

大川さんからだった。



『さっきは嫌な想いさせてゴメン
 でも考えておいてくれないか』





私はホントに
どうしたらいいんだろう。

何を信じたら
いいんだろう。




すべてがわからなくなって
電車の窓からうつりゆく景色を
ただ、眺めていた。
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