等心大〜tou・sin・dai〜
鬱々としながらも
いつものように仕事をして
友貴の部屋にむかった。





―まだ帰ってない。

合鍵で部屋に入る。




友貴の部屋は
友貴のにおいがする。

なんだか
なつかしい気持ちになって
私はおもいっきり深呼吸をする。







「何やってんだ、オマエ」

後ろから
友貴がアキレた顔で見ていた。



「何って…
 し、深呼吸よっ」

「変なヤツだな」


後ろにいるなら
声かけてくれればいいのに。
ふんっ。


心の中で
悪態つきつつも
顔がニヤける。



「今日は外に食いに行こうぜ」


友貴が歩き出したので
私も急いで追いかけた。



「何食おうか?
 彩の好きなのにしよう」

「どーしたの?」

「彩、最近ヘンだからさ」



気づいてたんだ。
私の変化に。


「なんか悩みでもあんのか?」

「・・・・・・」



まさか、言えない。
言えるわけない。

他の男とのことで
悩んでる、なんて。



「悩んでるなら言えよ。
 俺、そんなに頼りないか?」

「そ…そんなことないっ」


なんだか泣きたくなってしまう。
私、友貴を裏切ってるのに。
ヒドイ女なのに。


「まぁ今日はウマイもん食って
 元気出そうぜ」

ポン、と
友貴が優しく
私の頭に手を置いた。


そんなささいなことに
私は安心する。



「じゃあ私、お寿司がいいな」

「よしっ、今日は奮発だ!」




友貴は、私を傷つけない。
不安にさせたりしないし
気持ちを逆なでしたりもしない。

理想の結婚相手だと、思う。


それなのに
私はゼータクものだ。

やっぱり気持ちが
定まらない。
大川さんと切る勇気がない。
もちろん友貴も失いたくない。

両方なんて、
無理なのに―。
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