等心大〜tou・sin・dai〜
「着きましたよ」



思いのほか、
会社は近かった。




――デカイ。

ビルは想像より
遥かに大きく
私はちょっとひるんだ。




でも
もう行くしかない。




ビルは
テナントがたくさん入っていて
会社は最上階なようだ。



エレベーターに乗る。



緊張する。
ワクワクもしてる。
私、裏切られたのに。


きっとこんな
昼ドラみたいな
シチュエーションに
ワクワクしてるんだ。





エレベーターを降りると
すぐに会社の入口があった。



背筋を伸ばし
中に入る。


入口近くに座っていた
女性社員が立ち上がって
近づいてきた。




「西村と申します。
 大川誠さん
 いらっしゃいますか?」


毅然とした態度で
私は言った。


社員は
ちょっとビックリした様子で

「しょ…少々
 お待ちいただけますか?」


と言って
奥に行ってしまった。






声を出したことで
不思議と心が落ち着いた。


見回すと
社員はそれほど多くない。

ビルは大きいが
会社の規模は
そこまで大きくないようだ。






――あ。

さっきの女性社員と一緒に
もう少し年上の女が
近づいてきた。



女は私の前にくると
にこやかに微笑んでこう言った。



「申し訳ありません。
 大川はただ今
 外出しておりまして…」




――この人だ。


直感的に、そう思った。




女は続けて言った。


「お急ぎでしたら 私が代わりに
 用件をうかがいます。
 私、大川の家内です」



やっぱり。

目の前の女は
自信たっぷりに微笑んでいた。
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