等心大〜tou・sin・dai〜
帰り道。


父と顔を合わせると思うと
足どりが重くなった。


父に話を切り出すことが
憂鬱で仕方ない。
母から話してもらいたいくらいだ。

だけど
そうもいかない。




気が重いまま
玄関の扉を開ける。

父の靴があることを確認して
小さくため息をついた。



「ただいまぁ」

「あらあら、早かったのね。
 おかえりなさい。
 お風呂先にする?」

「ううん、
 お父さんとお母さんに
 話があるから」

「あら、めずらしいこと。
 じゃあ先にお茶入れるわね」



私は部屋に行き
コートとバッグを置くと
小さく深呼吸して
リビングに向かった。




父がソファーで
ビールを飲んでいる。




――話があるって言ったのに。



もう呑んでるなんて、と
イラだつ気持ちを抑え
私は父の向かい側に座った。

父はテレビを見ている。
ヨケーな小言を言われる前に
さっさと話してしまおう。
私は嫌なことは
先に済ませたいタチなのだ。



母がお茶を私の前に置いた。


「で、なぁに?」


私はハッキリと
ゆっくりと話した。


「私、結婚するから」



父が少し驚いたように
私の顔を見た。



「あら、嬉しい話じゃない。
 ねぇ、お父さん。」


母ははしゃいだ様子だ。
父は黙っている。



「どんな方なの?」

「ひとつ年上で、
 高原友貴さんっていうの。
 週末連れてくるから」

「あら、じゃあ大掃除しなきゃ」
< 86 / 150 >

この作品をシェア

pagetop