等心大〜tou・sin・dai〜
父が黙っていることに
私はイラだちながらも
少しだけ安堵していた。



ヨケーなことを言われるより
黙っているほうが、ずっといい。


「ご飯食べるでしょ?
 今支度するわね」


母が浮き立ちながら
キッチンに入っていった。

私もダイニングの方に
移動しようと立ち上がった時
父が口を開いた。




「…ちゃんとした人なのか」



そんなことしか言えない父に
私は内心ムッとする。

母みたいにはしゃがなくていい。
でももう少し
言えることはないのだろうか。

相手の肩書や素性しか
興味がないのだろうか。



「ちゃんとしてるわ。
 その定義がわからないけどね」



顔も見ずにそう答えると
私はさっさと移動した。





花嫁の父の気持ちなんて
私にはわからない。
一生わかりっこない。

でも
嫁にやるのは寂しい、とか
どんな相手でも許さん、とか
またその逆に
どんな相手でも
娘が選んだ人なら、とか
そんな温かみのある気持ちを
父からは感じられなかった。

それが意外にもショックだった。






「楽しみねぇ
 お母さん張り切っちゃう」


母の言葉を受け流しながら
私はなんだか
哀しい気持ちになっていった。
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