等心大〜tou・sin・dai〜
「西村さーん
 もう上がっていいよー」

一日中
仕事に身が入らなかった。

いつも熱心に仕事してるのか、と
そう問われたら
決してそうでもないけれど。



心の中のしこりを
完全に払拭することはできなかった。




もうすぐ私は結婚する。

妊娠したって
おかしくはない、のだ。
むしろ友貴も母も
大喜びしてくれるだろう。
まだ豆つぶのように小さな命に
語りかけて
名前を考えて。
絵に描いたような
幸せな家族になるだろう。




――でも。



本当に友貴の子?




そう言われたら
私は自信がない。



―なんでこんなタイミングで―


そう思う時点で
私は母親失格なのだ。きっと。






帰り道。
ドラッグストアに立ち寄り
化粧品と
妊娠検査薬を、買った。



本当なら
友貴に1番に言いたい。

妊娠検査薬も
友貴といっしょに
ドキドキワクワクしながら使いたい。




「…友貴ぃ…」

どうしようもない不安を抱えて
私は夜道でしゃがみこんだ。





――怖い。




友貴の子じゃなかったら
どうしたらいいんだろう。


きっとこれは罰だ。
優しい友貴を裏切った、罰。


本当なら
幸せになれるはずだった。
本当なら
喜んで
ドキドキして
友貴に報告するはずだった。




でも
その未来を
壊してしまったのは私。

裏切ったのは、私。




通い慣れた道で
私はしゃがみこんで
ただ、ただ泣いた。

見慣れた道が
余計に心を締めつける。
切なくさせる。



不安で。
不安で。
私の鳴咽が
夜道に響いた。
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