等心大〜tou・sin・dai〜
ようやく泣きやんで家に着くと
もう母は寝たようだった。
靴を見ると
父もまだ帰っていない。

泣き腫らした顔を見られたくなかった私はホッとした。




部屋に入り
鞄からさっき買った妊娠検査薬を取り出す。


説明書を読むと
尿をかけて数分おくだけ、と
簡単なようだ。





Pururururu…



携帯が鳴り
ビクッとした。
ディスプレイには
友貴の名前が浮かび上がる。



一瞬、躊躇して電話に出ると
友貴はいつもの様子だった。



『彩?もう寝てた?』



優しい声。
私は鼻の奥がツン、として
また泣きだしそうになった。



「ううん、起きてた」

『そっか。
 明日、時間ある?』

「…どうしたの?」

『うちの親に挨拶行く日とか
 相談したいしさ。
 ついでに飯でも食ってさ』



挨拶。

このまま
結婚していいんだろうか。
結婚、できるんだろうか。

そっとお腹に触れ
深呼吸をする。



――あなたは、友貴の子?



返事なんて、あるはずないのに
答えなんて、わからないのに。




『……彩?』


友貴が
無言になった私に
心配そうに呼びかける。


友貴の声が
こんなにも
愛しいものだったなんて。


失うかもしれない、って
そう思って
初めて気付いた。
愛しい声。





「うん、大丈夫。
 明日部屋に行くね」

『おぅ』

「…友貴ぃ」

『どした?』





友貴。友貴。友貴。



今頃になって
あなたの大きさに気付くなんて。


あなたとの未来
信じられなかったことに
ごめんなさい。

あなたの愛を
マンネリだなんて思って
ごめんなさい。
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