等心大〜tou・sin・dai〜
その声にハッとすると
不思議そうな顔で
友貴は私を見ていた。



「なんか眠くて…
 ウトウトしちゃってた」

「寝てないのか?」

「ううん、大丈夫」



私は立ち上がると
スカートのシワを手で軽く直す。


「じゃあ行こっか。
 外で食べるんでしょ?」

「あぁ、行こう」

「何食べよっかな〜」

「眠いのに腹は減ってんだな」


フッと笑う友貴。

友貴の柔らかい笑顔が
今の私の心に
ゆっくりと染みわたる。

掴むはずだった、幸せのカケラ。



「行こう行こう」


そっと
友貴の大きな手に
私の手をからませる。
友貴はその私の手を
しっかりと握りかえした。


「今日は美味いもん食おうぜ」

「じゃー私、お寿司がいいなー」

「よしっ。じゃあ寿司だ!」

「回ってるやつ?」

「ばぁーか。
 回ってないやつだよ」


二人で笑い合うと
嫌なことや不安なことなんて
忘れてしまう。



外に出ると
夕方の風が心地よくて
なんだか泣きだしそうになった。

夕方って、なんか切ない。



「結婚したらなかなか
 外食なんてできないだろうな」


友貴が嬉しそうに言った。


「そうだね。
 貯金もしないと」

「いずれ子供もできるだろうしなー」





ズキン。



胸の痛みを隠すように
わざと明るく、大きな声で話す。


「夢はマイホームだねっ
 芝生のある庭で犬飼って
 友貴は日曜大工とかしちゃったりして」

「そうだなぁ。
 いいなぁ、そういうの」



来ないかもしれない
幸せな未来の話をしながら
私たちは歩いた。




―来ないかもしれない―

そう思っている時点で
きっと私の心は決まっていた。
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