DECIMATION~選別の贄~

明美のおかげで菜月は5時間目と六時間目をどうにかこうにか上の空にならずに過ごした。

しかし案の定、加藤には「たるんどる」と授業中に言われていた。

放課後を告げるチャイムと共に菜月はスクールバッグを背負う。

そして一目散に駆け出した。

「え、なっちゃんどうしたの?」

一日中あれだけやる気のなかった菜月が急に駆け出していったので級友達が驚いていた。

そんな中で一人だけ事情を知っている明美が笑う。

「大好きなお兄ちゃんが月に一度帰ってくる日だとさ」

「あー、あのイケメンの先輩かぁ」

「確かにあんなお兄ちゃんが帰ってきたら嬉しいわぁ、濡れるわぁ」

「濡れるて、オイ」

クラスの女子達が笑うなかで明美だけは笑うことができていなかった。

「たった一人のお兄ちゃんだもんね」

明美には4つ歳の離れた兄貴がいた。

面倒見がよく明美は兄貴のことが大好きで喧嘩も一回すらした記憶など無い。

そんな兄貴を五年前に失った。

部活の遠征帰りに乗車していたバスが大きな事故に巻き込まれてしまい、病院に搬送された時にはもうすでに心臓死の状態であった。

正義感の強かった兄は臓器提供の意思を常々家族に宣言していた。

家族は苦悩の末に臓器提供の意思を医師に告げた。

助かることのできなくなった兄の命を託して、助かった命がある。

それでも明美は見ず知らずの誰かの命よりも最愛の兄の命を救ってほしかった。

「お兄ちゃん、会いたいよ」

そう誰にも聞こえない声で呟いて明美は窓から、紅く染まり始めた空を見上げるのだった。





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