DECIMATION~選別の贄~
菜月は想次郎のシャツが血に染まっていくのをコマ送りの様に見た。
ピエロの放った弾丸は想次郎の左に居た会計に向かう中年夫婦の女性の頭部を撃ち抜いた。
女性は後ろから思いきり突き飛ばされたかの様に、銃弾の力で前のめりに押し倒されていった。
壊れた蛇口から吹き出す水の様に巻き散る血飛沫が隣にいた夫の顔と、想次郎の服を染めていく。
女性が力なく倒れて、地面で弾んだ。
抵抗のない人間は骨や肉の弾力で地面に弾むのだと初めて知った。
「きゃーーーーーっ!!」
「人殺し!」
「助けてぇ!」
店内はパニックに陥る。
誰かの叫び声を皮切りに、恐怖が店内を飲み込んでいく。
菜月は身体から力が抜けていき、尻餅をつくようにその場で座り込んだ。
「なんだろなぁ……そんなに慌てることもないのになぁ……だってあれはたまたま死んだだけ、運が悪かっただけなのに……
別に大量虐殺がしたいんじゃないのになぁ……人間て煩いなぁ」
ピエロは今まさに人を殺したと言うのに、逃走するでもなく、次々と人を撃ち殺すでもなく、ぶつぶつと呟きながら立ち尽くしている。
「菜月!そいつから早く離れろ」
想次郎は全力で走り、拳銃を持っているピエロに臆することなく向かっていきピエロを殴り飛ばした。
手から離れた拳銃が床に転がる。
「菜月、菜月!」
想次郎はへたりこむ菜月を抱き締めて何度も何度も名前を呼ぶが、菜月はショックから気が動転し返事すらできない状態だった。
「誰か警察だ」
「正子!まさこぉ!!」
「救急車を早く!」
我先にと逃げ出した者。
身体が言うことをきかずに立ち尽くす者。
悲運な運命でその生涯に幕を閉じた者。
伴侶を失い声を枯らして叫び続ける者。
正義感のみで携帯を片手に奮闘する者。
「……レディース、エーンド、ジェントルマン。
今宵から悲運多数死の選別の始まり始まり♪
最初の夜はこのピエロがお送りしましたが、ピエロとはこれにてお別れ。これから楽しい夜を過ごしましょう」
ピエロはぶつぶつと呟き立ち上がると、ゆっくりと拳銃を拾った。
そして白塗りでもはっきりと分かる満面の笑顔を見せながら自らのこめかみに銃口を突き付けた。
「あなたは運良く生き残れるか?それとも悲運に死ぬか?どっちかな☆
それではつまらない日々、退屈な人生にバハハーイ♪」
再び銃声が鳴り響きピエロは地面に崩れ落ちる。
真っ赤な血が床を染めて、瞳孔が開き見開いた目がしっかりと菜月を見つめていた。