DECIMATION~選別の贄~
始動
リズミカルにベッドが軋む。
弾んだ呼吸に合わせて騎乗した女のたわわな胸が揺れる。
「ああ、お前は本当に良い女だ」
興奮と快楽の中に酔いしれながら男は満悦そうにそう言いながら腰を動かし続ける。
「あっ、あなたもよ。
でも知らなかったわ、あなたが私のことを女としてみていたなんて」
二人は体位を変えて行為を続ける。
薄明かりが怪しく裸体を光らせる。
静まり返った郊外の情事に月すらも雲の影に身を潜めている。
「嬉しい。
私ただの性欲の処理道具でも良かった。ただあなとの側であなたの愛を受けるだけで満足だった。
それなのに……あんっ」
二人は折り重なるように向かい合わせ、深く深い接吻を続ける。
「そんなあなたが私を……こんな私を女としてみていたなんて」
女は綺麗な一滴の涙をこぼした。
男はそれを嘗めとる。
「こんな女だなんて言うな。
お前は美しい、私の生涯でも最高の女だよカスミ」
カスミは満面の笑顔で腕をからめて男、の唇を奪う。
「ねぇ、そろそろあなたの秘密も教えてくれても良いんじゃない?」
カスミは覆い被さる男を挑発するかのように情熱的に腰をくねらせる。
次々に襲いかかる快楽と興奮の渦に男の思考は鈍っていく。
「待て待て、このままでは中に……出る」
動きを止めようとカスミの肩を掴むが、カスミはそれを払い除ける。
「私良いのよ?あなたのだったら……
ねぇ、先生」
「くっ……ぐぅっ」
軋む音が途端に止まり、先程までとは少し違った息が弾む。
「ね先生、私も先生の力になりたいの」
果てる男の耳元で甘い声が囁く。
「……あれへの入り口は私が確かに持っているが、その鍵となるパスワードは幹部がそれぞれ所有するもので決して口外されることはない」
「あなたは幹部ではないと?」
男は豊満な胸に顔を埋めて息を切らしながら話を続ける。
カスミは男の白髪混じりの頭を優しく撫でながら片方の手で近くに置いていたバッグの中を探っていた。
「私程度では幹部になどなれやしない。私達は彼らのバックアップみたいなものさ」
精魂を使い果たし男はまどろみの中に落ちようとしている。
カスミは静かにゆっくりとバッグの中からそれを取り出した。
「そう、いつも楽しいおしゃべりをありがとう先生。
疲れたでしょう?おやすみなさい」
カスミは男の後頭部に金属製の塊をあてがう。
「愛してるわ……」
「ああ、私もだよ……カス……み」
郊外に似つかわしくない銃声が一発鳴り響き、カスミは返り血に染まる。
頭部を撃ち抜かれた男は即死して完全に力の抜けた身体をカスミに預けて伏している。
カスミは面倒臭そうに男の身体を払い除ける。
そしてバッグから煙草を取り出すと火を点けた。
「また外れか。
でもまこの男からはなかなか情報を引き出せたから良しとしようかしら。
あなたとの夜はなかなか刺激的だったわよ、橋場弁護士」
カスミは吸い終えた煙草を橋場の亡骸の手の甲に押し付けて消した。
そして吸い殻をベッドに放り投げ、バッグの中から改めて取り出した物を整頓された机の上に並べると部屋を後にした。